学生アルバイトの労働環境
今年の梅雨は、雨量が少ないまま過ぎてしまうのでしょうか?
小雨の合間に、夏の暑い日差しも垣間見える時期になってきました。
もうすぐ暑い夏です。スタミナつけて乗り越えないと。
今回は若い人に向けて、「学生アルバイトの労働環境」について少しだけ書いてみます。
経済格差が大きく広がってきた現在、学生でも働いて学費を稼がなければならない人が増えていると思います。
そんな状況の中、学生がアルバイトをする際、会社の労働基準法違反により不利益を被ったり、学業に支障をきたしたりするなど、
「社会問題」として注目され始めています。
そこで、厚生労働省では、「学生アルバイト」の労働環境や学業への影響等を把握するために、「学生に対するアルバイトに関する意識調査」を平成27年度に行いました。
具体的には、
大学生等(大学生、大学院生、短大生、専門学校生)の意識等調査(平成27年8月27日~9月7日)の結果を、平成27年11月9日に公表し、
高校生の意識等調査(平成27年12月~平成28年2月)の結果を、平成28年5月18日に公表しました。
この調査の結果で注目すべきポイントがいくつかありました。
大学生等の58.7%、高校生の60.0%の調査対象者が「労働条件通知書等を交付されていない」と回答し、
「口頭でも具体的な説明を受けた記憶がない」と回答した大学生等が19.1%、高校生が18.0%ありました。
実は、労働基準法第15条には、使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して、以下の6項目については「書面により明示しなければならない」とされています。
1)契約はいつまでか(労働契約の期間に関すること、期間の定め無しならその旨)
2)期間の定めがある契約の更新についてのきまり(更新の有無、更新する場合の判断基準など)
3)どこでどんな仕事をするのか(就業の場所、従事する業務)
4)仕事の時間や休みについて(始業と終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日・休暇、交代制勤務のローテーション等)
5)賃金はどのように支払われるのか(賃金の決定、計算と支払方法、締切と支払の時期)
6)辞めるときはどのような決まりがあるのか(退職に関すること、解雇事由を含む)
約6割のアルバイト先では、これを行っていないということになります。
さらに、上記以外の労働契約の内容についても、使用者と労働者は「できる限り書面で確認」する必要があると、労働契約法第4条第2項で定められていますが、
これも行われていないと推測されます。
また、意識調査の結果から、労働条件等で「何らかのトラブル」があったと回答したのは、大学生等では48.2%、高校生では32.6%でした。
トラブルの中では、大学生等も高校生も「シフトに関するもの」が多いのですが、
以下のようなトラブルがあったことが、この調査で回答されています。
> 1日に労働時間が6時間を超えても休憩時間がなかった
> 働いた時間分の全てがアルバイト代として計算されていない(タイムカード打刻後に働かされたなど)
> 準備や片付けの時間に賃金が払われなかった
> 時間外労働、休日労働、深夜労働について、割増賃金が支払われなかった
> 満18歳未満で原則禁止されている深夜労働、休日労働させられた
これらは、労働基準関係法令に違反しているおそれがあります。
それ以外にも
> 採用時に合意した以上のシフトを入れられた
> 採用時に合意した仕事以外の仕事をさせられた
> 一方的に急なシフト変更を命じられた
> 一方的にシフトを削られた
> 給与明細書がもらえなかった
などのトラブルがあったという回答もありました。
当然のことですが、学生にとって学業を修めることは重要なことです。
しかし、使用者が「学生」をアルバイトとして雇っているということを知りながら、試験の準備期間や試験期間に休みを与えなかったり、シフトを入れたり変更したりすることは、使用者としての配慮に欠けることだと思います。
もちろん、会社としては悪意ではなく、法律を知らなかったり、アルバイトということでうっかり手続きを省略してしまったりしていることもあると思います。
ですから、学生のみなさんは、アルバイトをするに当たって、
「労働条件をしっかり確認」することが大切だと思います。
学生アルバイトも、「会社の指揮命令下で働いて賃金を支払われている」わけですから、他の労働者と同じように、
1)賃金(バイト代)は、毎月、決められた日に全額支払われます
2)残業手当(割増賃金)は支払われます
3)条件を満たせば(6カ月以上継続、8割以上の出勤など)有給休暇が取れます
4)仕事中にケガをすれば労災保険が使えます
5)会社都合の勝手な解雇はできません(社会の常識にかなう納得できる合理的な理由が必要)
6)都道府県で決められた最低賃金以上の時給の賃金がもらえます
7)もし辞めさせてもらえないようなことがあっても、あらかじめ契約期間が定められていないときは、少なくとも2週間前までに退職の申し出をすれば、法律上はいつでも辞めることができます。
(ただし、就業規則で退職手続が定められている場合、その内容が合理的であれば従う必要があります。また、契約期間に定めのある労働契約を結んでいる場合、途中で退職することは、やむを得ない事由がある場合を除き、原則としてできません)
多くの学生のみなさんは、いずれ何処かの組織で働くことになると思います。
ですから、労働関係の最低限のルールは知っておいたほうがよいと思います。(最初から社長になるとしても)
会社にとって「人を大切にする会社」は、長期的に、成長・発展し、社会の信頼性が高まっていくことはわかっていると思いますし、
短期的にも、労働環境をより良くしていくことは会社の業績向上に繋がると考えている会社は多いと思います。
ですから会社の規模に関係なく、労働環境の良い会社や、改善する意欲のある会社は沢山あるので、
今後それをしっかり見極めるためにも、
アルバイトをするにあたって、(学業を疎かにしないことはもちろんですが)
「社会人としての基礎知識」や「会社を見る眼識」を、身に付けるよう努めてみたら如何でしょうか。
「ホワイト企業」の証明
7月7日は七夕ですね。(地域によっては8月7日ですが・・・)
子供のころは、短冊に願い事を書いて飾り物を竹に飾り、
クリスマスツリーのように感じ、何だかいいことがありそうな気がして楽しかったけれど、
年を重ねてからは、人の飾った七夕飾りを何気なく見るだけになってしまいました。
さて、本日の話題になります。
見知らぬ会社に求職する時や、新たな取引を開始する時、
「相手はどんな会社なのか」をインターネットで会社のホームページを調べることはありませんか?
でも、その会社自身が作ったホームページを、本当に100%信じられるでしょうか?
昨今「ブラック企業」という言葉が普通に使われ、
一部の企業による「長時間労働」「未払い残業」「社会保険、労働保険の未加入」「セクハラ、パワハラ」などが大きな社会問題になっていることはご存知の通りです。
私たちは、そのような労務管理の問題に「適正に取り組んでいる会社」に採用されたいし、また仕事の取引したいと思い、
出来るだけ正しい情報を知りたいと思いますよね。
でも実際には「ブラック企業」と言われる会社は、会社自身の作ったホームページに「自社の悩みや問題点」はおそらく書かないと思います。
一方「ホワイト企業」は、真面目に経営や労務に取り組んでアピールしても、「ブラック企業」と同じように、会社のホームページが見られてしまい、正しく真実が伝わらない可能性があるかもしれません。
ですから、ネット上の会社情報について「客観性」や「信ぴょう性」を担保する仕組みが必要ではないかと思います。
実は、最近、そんな仕組みが出来ました。
平成27年10月から「マイナンバー」が個人に通知されたことは、まだ記憶に新しいことだと思いますが、
同時に、国税庁は「法人番号」も435万の法人に通知し、これを公表したことで、法人に関する様々な情報を紐づけることができるようになりました。
それを利用して、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)は、平成27年12月17日から「サイバー法人台帳ROBINS(以下、ROBINS)」を公開し、
「法人番号」「商号」「所在地」に加えて、「法人のロゴ」「電話番号」「ホームページのURL」「商品情報」「法人のPR」だけでなく、
「経営労務管理」なども併せて公開することになりました。
そして、これらの企業情報の「信頼性を高める」ために、
社会保険労務士、行政書士、司法書士等、社会的に信頼できる確認者(第三者)が、
エビデンス(証拠、根拠)に基づいて事実を確認することになっています。
怪しい情報があふれるサイバー空間上で、正しい企業情報を提供でき、企業情報の信頼性を高める、今までにない情報提供サービスだと思います。
社会保険労務士が確認べき企業情報は「経営労務診断」です。
おそらく多くの企業は、健全な経営労務状況の「ホワイト企業」であることを証明したいと考えていると思います。
それを証明するために、社会保険労務士は、対象企業をエビデンスに基づき情報を確認し、電子証明書による署名ができます。
診断すべき主な項目は、以下の通りです。
Ⅰ. 経営労務管理に関わる基本規程
1)法定帳簿(賃金台帳 等)
2)人事労務関連規定(就業規則、育児・介護休業関連規定 等)
3)人事労務管理データ(労働時間管理、ハラスメント相談 等)
4)社会保険・労働保険(健保、年金、労災、雇用の加入 等)
5)組織関連規定(組織規程 等)
Ⅱ. 経営労務管理に関わる基本的数値情報
1)従業員情報(全従業員数、正規従業員の平均年齢、正規従業員の平均年収 等)
2)就業情報(正規従業員の平均労働時間、正規従業員の平均勤続年数 等)
3)労務管理情報(女性役員・管理職数、非正規雇用者数、正規従業員離職者数-直近3年間 等)
この診断結果は「誰でも」「いつでも」「どこでも」「簡単に」見ることができます。
そして相手の会社が「安心安全な取引が可能な企業」なのか、働くのに「快適な職場環境」なのか等の情報が得られます。
始まって間もない仕組みなので、会社情報の登録はまだ少ないですが、これから徐々に増えてくると思います。
また、この「経営労働診断」に適合した会社には、「経営労務診断適合シール」が付与され、
会社の名刺やホームページ上に「経営労務管理適合シール」を記載することができ、
経営労務管理に適正に取り組んでいることを「見える化」することで、社会へのアピールが可能になります。
(※詳しくは「サイバー法人台帳ROBINS」で検索してみてください)
今後、益々「コンプライアンスを遵守した経営」であることが、会社の継続、発展にとって大切なことになってくると思います。
会社は「適正な経営労務管理」に向けて改善を進め、働く人は正確な情報で「間違いのない会社の選択」を行うことで、
社会全体の労働環境の改善につながっていくといいですね。
短時間労働者の社会保険の基準
梅雨に入って天気は安定しませんが、関東では水不足、西日本では大雨のところもあるようですね。
お気を付けください。
自分のヒマワリは順調に育っています。アジサイも綺麗ですね。
先日(平成28年6月17日)東京地裁で、ある判決が出たことがマスコミで報道されました。
大手の語学学校で英語講師として働くカナダ人男性が、労働時間が減少し厚生年金保険の被保険者資格を失ったため、加入資格を認めるよう日本年金機構に求めた訴訟で、
東京地裁は、資格を認めなかった処分を取り消す判決が出された、ということでした。
実際に、社会保険料の負担を抑制するために、講師の労働時間を正社員の4分の3未満に抑える外国語学校が多いそうです。
もちろん日本の年金制度は国籍は関係なく「日本国内に住所」が有れば、日本人と同様に年金についての権利、義務が発生します。
今回の判決によると、
外国人講師は40分のレッスンを週35コマ担当していましたが、労働時間の減少を理由に厚生年金保険加入資格を喪失し、
資格確認請求を日本年金機構にしましたが却下され、これに対する審査請求、再審査請求も却下されたので提訴したそうです。
判決では、講師の労働日数は常勤講師と変わらず、各レッスン前の5分間を準備に費やす労働時間として加えると、常勤講師の「4分の3」に近づくと指摘し、
また、報酬の額も十分あり、事業主との雇用関係も安定しているとして、被保険者から除外するのは相当ではないと判断されました。
それからこの裁判における、もうひとつの大きな論点として、
「短時間労働者の加入基準」である「4分の3」が違法か適法かということがありました。
というのは、この「4分の3」という加入基準は、昭和55年6月6日付の厚生労働省の「内かん(内簡または内翰)」(以下「昭和55年内かん」)が根拠になっているからです。
この「昭和55年内かん」には、
「・・・・同一の事業所において同種の業務に従事する通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数の「おおむね4分の3以上」である就労者を、原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱うべきものであること、・・・」
と記述されてあり、実際、長い間運用されてきました。
しかし「内かん」というのは法令ではないので、法的な拘束力は一切なく、あくまで技術的な助言・中央省庁の考え方を示すものに過ぎないと言われています。
通達等とも異なり、私文書に近いのですが、それでも、これによる行政行為が国民の権利の制限や義務の負荷に影響を及ぼす可能性は否定できないとも言われています。
しかし、今回の判決では「昭和55年内かん」が違法であることは認めず「適法」であるとされました。
しかしながら、今年の秋(平成28年10月1日)以降は、「4分の3基準」が法律になります。
そして、同日以降、「昭和55年内かん」は廃止されることになります。
健康保険法と厚生年金法の改正により、
「1週間の所定労働時間及び1月間の所定労働日数が、同一の事業所に使用される通常の労働者の1週間の所定労働時間及び1月間の所定労働日数の4分の3以上(以下「4分の3基準」)である者を、健康保険・厚生年金保険の被保険者として取扱うこととする」
と明確にされます。
また、もし「4分の3基準」を満たさない者であっても、以下の5要件すべて満たす者であれば、被保険者になれます。
1)1週間の所定労働時間が20時間以上であること
2)同一の事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること
3)報酬の月額が8万8千円以上であること
4)学生でないこと
5)特定適用事業所(使用する被保険者の総数が常時500人を超える事業所)に使用されていること
また、これまで一定要件備えていないと「70歳以上の使用される者」は被保険者になれませんでしたが、改正法施行以降は、70歳未満の基準が準用されることになります。
いずれにしても、
年金の財源確保のための「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大」が背景にあります。
多くの人が年金制度に入れることは良いことだと思いますが、
事業所や労働者の保険料は、重い負担になると思います。
低い給与から、保険料を差し引かれることを望まない労働者もいると思います。
やはり、会社が収益を向上させることができる経済環境の改善や、
非正規労働者を正社員にして安定した収入を得られる仕組みを作っていくような施策が並行して実行されなければ、
国民にのみ負担を科すことになりかねないと思います。
しかし、老後を考えて年金制度に入りたくても入れなかった人にとっては一歩前進だと思います。
とにかく今回の外国人講師は、判決によって被保険者資格が復活して本当に良かったですね。
役に立つ就業規則
前回このブログで触れたヒマワリの苗は4本生き残っています。
さらに、先週、種を追加して撒きました。
少し遅くなってしまいましたが、今回は農薬も使って、順調に芽が出てどんどん成長しています。
頑張れヒマワリ!!
さて、今回は「就業規則」について書きます。
事業主の方も労働者の皆様も「就業規則」について、よくご存じだと思います。
「就業規則」は、労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関することや職場内の規律などについて定めた「職場のルールブック」です。
職場でのルールを定め、労働者も使用者もそれを守ることで、みんなが安心して働くことができ、労使間の無用のトラブルを防ぐことができます。
でも、自分の会社の「就業規則」をしっかり読んでいらっしゃいますか?
ところで、本来「労働条件は、労働者と使用者が対等の立場において決定すべきものである」とされていますが、
事業主が一方的につくった「就業規則」が、一種の法律のように拘束力を持つとされているのはどうしてしょうか?
それについては、最高裁判所の有名な判例「秋北バス事件(昭和43年12月15日)」で判断されました。
「労働条件を定型的に定めた就業規則は、
一種の「社会的規範」としての性質を有するだけでなく、
それが合理的な労働条件を定めているものである限り、・・・その法的規範性が認められるに至っているものということができる。」
と述べられ、通常の「法律」がそうであるように、
「労働者は、「就業規則」の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受けるものというべきである」
という法的性質を有しているとされました。
ですから、労働者が「就業規則」を知らないから「就業規則」に従わないというわけにはいかないですよね。
でも「就業規則」が法的規範としての性質を有し、拘束力を生じさせるためには、
その内容を労働者に「周知させる手続き」が採られていることを要する、ということが最高裁判例(平成15年10月10日)で判断されています。
「周知させる手続き」というのは、労働基準法第106条に、
1)常時各作業場の見やすい場所に掲示する、または備え付ける
2)書面で労働者に交付する
3)磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する
と指示しています。
ですから事業主は「就業規則」を有効に活用するためには、「就業規則を周知させる手続き」を怠らないようにしないといけないことになります。
ところで、有効な「就業規則」があると、使用者や労働者に、どんなメリットがあるのでしょうか?
いくつか例を挙げると、
1)会社のルールを、統一的、画一的に文書化することで、社内の統治や職場の秩序を保つことができ、無用なトラブルを防ぐことができます。
2)労働者にとっては、ルールが明文化されているので、使用者の思い付きや恣意的な制裁等を避けることができ、何をやるべきか、何をしてはいけないのかが明確になり、安心して働けるようになります。
3)万が一、職場内のもめ事が大きくなって裁判等になってしまった場合には、「就業規則」に書かれていることは判断基準のひとつになります。ですからもし残業命令、懲罰等について何も書いていないと、処分の根拠を失う可能性があります。
4)労使ともにしっかり「就業規則」を守り、コンプライアンス意識が向上し、労働者の健康や権利を守りながら働かせる使用者の意識が浸透することになれば、労働者の会社に対する信頼感が高まり、職場の士気が向上すると思います。さらに会社に対する信頼は、社内のみならず社外の人まで影響するかもしれません。
5)賃金、賞与、退職金、賞罰、お見舞い等の処遇の基準が明確になり、労働者の公平性が保たれます。
6)個別に労働条件を契約するのに比べて、包括的同意により労働者を管理でき、労務管理の時間やコストが抑制できます。
7)助成金を申請をする際に「特定の就業規則の規定」があることが条件になる場合があり、申請がしやすくなります。
つくるのに多少の手間はかかりますが、職場にとって役立つことが多いと思います。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、「就業規則」を作成して、労働基準監督署に届け出ることが義務づけられています。(労働基準法89条)
もし、まだ「就業規則」をつくっていない事業主の方、現在の法律に適応していない「就業規則」のままにしている事業主の方、現在の社内のルールに合わなくなった「就業規則」のままの事業主の方などがいらっしゃれば、
是非、現在の法律、現在の会社のルールにあった「就業規則」につくり直して、役立つ「就業規則」にしたら如何でしょうか。
そしてさらに、その中に事業主ご自身の「社是」「社訓」「経営理念」なども入れておつくりになったら、事業主の「会社に対する思い」を反映させた、会社独自の立派な「就業規則」になると思いますよ。
「パワハラ」の事実確認
ヒマワリ栽培が思わぬ苦戦を強いられています。
双葉が虫(這った跡が光っていて、おそらくナメクジ)に食われ、残り5本です。
来週まで残るかなあ。
「パワハラ」は、「セクハラ(男女雇用機会均等法で規定)」と異なり、法的な定義はありません。
一説では、某コンサルタント会社の代表による和製英語だそうです。
しかし厚生労働省でも、「パワハラ」「いじめ」等は労働者の尊厳や人格を侵害する許されない行為であり、
職場の生産性の低下や人材の流出といった損失を防ぎ、労働者の仕事への意欲や職場の活力を低下させないためにも、この問題に積極的に取り組む必要があるとして、
平成23年7月から平成24年3月まで「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」が開催され、「パワハラ」について定義されました。
「職場のパワーハラスメントとは、
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に、
業務の適正な範囲を超えて、
精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」
※ 上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。
そして、「パワハラ行為の事例」が分類され、以下のとおり挙げられています。
【身体的な攻撃】 暴行・傷害(叩く、殴る、蹴る等、丸めたポスターで頭を叩くなども)
【精神的な攻撃】 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(同僚の前で叱責、長時間、繰返し執拗に叱るなど)
【人間関係からの切り離し】 隔離・仲間外し・無視(1人だけ別室、強制的な自宅待機、送別会に出席させないなど)
【過大な要求】 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(新人に仕事を押付け全員が帰るなど)
【過小な要求】 業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない
【個の侵害】 私的なことに過度に立ち入る(交際相手についての執拗な質問、身内の悪口など)
しかし、この「ワーキング・グループ」が定義した「パワハラ」は法律ではなく、
あくまでも、予防・解決に向けて取り組むべき行為について、労使等が認識を共有するために整理されたものに過ぎないので、
これに該当すれば当然に私法上の違法性が基礎づけられるような概念ではありません。
逆に言えば、この概念に該当しない行為ならば、当然に違法ではないことを意味するわけでもありません。
ですから、職場で「いじめ」「嫌がらせ」があったとしても、個々のケースごとの実態で判断されることになります。
そこで、過去の「パワハラ」に関係するような損害賠償請求事件の「裁判例」が、
今起こっている職場の問題が「パワハラかどうかの判断材料」のひとつになります。
例えば、
以下の東京地方裁判所が平成22年7月27日に判決を言い渡した裁判例は、
上記分類の【身体的な攻撃】【精神的な攻撃】に当たると言われています。
ある会社の上司Aは、部下Bの業務の方法について、事情を聞かずに叱咤し「今後、このようなあった場合には、どのような処分を受けても一切異議はございません」という始末書を提出させたり、部下Bの提案に対し「お前はやる気がない。なんでここでこんなことを言うんだ。明日から来なくていい」と怒鳴るなどしました。
また、部下CとCの直属の上司を「馬鹿野郎」「給料泥棒」「責任を取れ」などと叱責し、Cに「給料をもらっていながら仕事をしていませんでした」という文を書かせた上で、始末書を提出させたり、
部下Dの背中を殴打し、面談中に膝を足の裏で蹴ったり、部下Cの妻について「よくこんな奴と結婚したな、物好きもいるもんだな」とDに言ったりしました。
判決では、上司Aに対しては、抑うつ状態になり休職した部下Bについては、約60万円の慰謝料、部下CとDに対しては、それぞれ40万円と10万円を慰謝料として支払うことを命じただけでなく、会社も使用者責任を負うことになりました。
それから【人間関係からの切り離し】【過小な要求】の例としては、富山地方裁判所の平成17年2月23日の裁判例などがあります。
労働者Aは、マスコミに自分の会社が関わる違法な闇カルテルの存在を告発したところ、その後20数年にわたって、教育研修所の配属となり、他の社員と離れた個室に席を配置され、研修生の送迎等の雑務しか与えられませんでした。
この判決では、労働者Aの内部告は正当な行為であるとした上で、不法行為、債務不履行責任により、1,357万円の損害賠償が会社に命じられました。
ここではあまり裁判事例を挙げませんが、
幾つもあるこのような事例が、「パワハラかどうかの判断」の参考になります。
ご興味のある方は調べてみたらいかがでしょうか。
では実際に「パワハラ」の問題が発生すると、会社にはどのような影響を受けるのでしょうか?
このような職場では、信頼関係が崩壊していると考えられ、
1)業務効率の低下 2)職場内コミュニケーションの低下および悪化 3)労災事故の増加
4)出勤率の低下 5)顧客サービスの低下 6)有能な人財の流出
7)労使トラブルの増加 8)訴訟リスクの増大
などの様々な問題が発生することが懸念されます。
また上司と部下が裁判で争うことになれば、会社としても、安全配慮義務違反等が問われることも考えられます。
ですから使用者としては、日頃の上司と部下とのやり取りは労働者間の問題に過ぎないと軽視せず、
できれば会社としての相談窓口の設置などの体制を整え、本気で取り組む姿勢が必要かもしれません。
その際常に「事実」をしっかり確認することが重要だと思います。
パワハラ被害を訴える人の申告内容がすべて正しいとは限らず、加害者として訴えられた人を、誤って陥れてしまう懸念もあります。
また、パワハラの加害者に対する懲戒処分を行うときも、会社として「パワハラが存在」し不法行為や違法性を認めたことになるので、慎重に進めることが必要です。
やはり、正しい事実認定や記録、判断基準の確認と、それによる合理的な判断などを適正に行うことが大切だと思います。
パワハラ上司と言われる人は、厳しい指導者で、社内では優秀な人財であることが多いそうです。
私が以前受講したセミナーでは、「パワハラ」と「厳しい指導」を区別するポイントを5項目挙げていました。
1)職務上の合理性があるか?
2)同じ言動を繰り返してはいないか?
3)健康や安全を脅かす可能性はないか?
4)パワー(優位性)の存在がみとめられるか?
5)自己防衛できるか、回避の余地はあるか?
などを「相対的基準」で判断するようです。
しかし、実際には「問題の事実確認」だけでも大変だと思います。
でも職場に発生している問題の事実を丁寧に確認をすることで、職場の改善や社員教育の在り方等も見えてくるかもしれません。
それが「パワハラ」問題を解決に導くだけでなく、そんなことが起こらない「社員が互いを尊重し合う」職場づくりに生かせるといいですよね。
ブラック企業名の公表
先週、庭にヒマワリの種を数粒撒きました。
2メートル位になると、種の袋には書いてありましたが、どうでしょうか。
楽しみです。
先週、テレビや新聞等で「違法な長時間労働をしている企業の公表」についてのニュースがありました。
その内容は、
厚生労働省の千葉労働局が、平成28年5月19日、千葉市内の「棚卸サービスの企業」に対し、
「違法な長時間労働を複数の事業場で行っていたこと」について「是正指導」し、その「企業名等を公表」したということです。
この企業では、1カ月当たり100時間を超える時間外や休日労働が行われていたことが、4カ所の事業場(A・B・C・D)で確認され、
A事業場では18名が100時間を超える時間外労働で、最長約182時間の労働者がいました。
また、B事業場では14名が該当し最長約175時間、C事業場では16名で最長約118時間、
さらにD事業場は15名で最長約197時間にもなった労働者もいました。
非常に過酷な職場環境だったことが察せられます。
でも、この事件がなぜニュースで取り上げられたのでしょうか?
これまでは、企業が長時間労働で法律に違反した場合、
労働基準監督署が「是正を指導、勧告」し、それでも「従わない悪質な企業に限って書類送検」して、「社名を原則公表」していました。
しかし、今回の事件については、「是正指導(法的拘束力が無い行政指導)の段階」で、初めて「企業名を公表」したのです。
その背景には、平成27年5月15日に厚生労働省で行われた「臨時全国労働局長会議」があります。
この会議で、企業の長時間労働の労働基準法違反の防止を徹底し、自主改善を促すために、
都道府県の労働局長が経営トップに対して全社的な早期是正について指導し、その事実を公表する、という方針を明らかにし、
同年5月18日より実施されることになりました。
企業名公表の対象は「社会的に影響力の大きい企業(主に300人を超える大企業等、詳細省略)」で、以下のいずれにも当てはまる事案です。
1)違法な労働時間があったこと
>労働時間、休日、割増賃金に係る労働基準法違反
>1カ月当たりの時間外・休日労働時間が100時間超え
2)相当数の労働者がいたこと
>1カ所の事業場において、10人以上の労働者又は当該事業場の4分の1以上の労働者において「違法な長時間労働」
>概ね1年程度の期間に3カ所以上の事業場で「違法な長時間労働」
今回の企業名の公表により、当該「棚卸サービス企業」の株価は、翌日20日以降、ストップ安まで下落し、その後も株価が低迷しています。
また、インターネット上(SNS等)などでも、社長の個人情報から会社情報まで流れ、風評が広がっています。
さらに、ハローワークでも平成28年3月から、いわゆる「ブラック企業」の求人は受け付けないことになっており、求人が難しくなるかもしれません。
その他にも、社員の損害賠償や個別紛争対応、社員の士気の低下、そして顧客離れ等もあるかもしれません。
このように「企業名の公表」は、顧客、株主、労働者など経営全体に影響が及ぶ可能性があり、情報社会の近年では非常に厳しい制裁だと思います。
今回の措置は「大きな企業」のみが対象になりますが、それ以外の「中小企業」にとっては他人事だと言っていられないかもしれません。
というのは、
国では「日本再興戦略」の改訂(平成27年6月30日閣議決定)において、「働き過ぎ防止のための取組強化」を重要項目として盛り込んでいます。
そして「過労死等防止対策推進法」(平成26年11月施行)に基づき、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(平成27年7月24日閣議決定)が定められるなど、長時間労働対策を強化しています。
また厚生労働省に「働き方改革推進本部」も平成27年1月に設置しています。
ですから「大企業」だけでなく、企業の9割以上を占める「中小企業」についても、直接的、間接的に徐々に改善を指導していく方向ではないかと思われます。
今後、長時間労働削減に向けて、いろいろな施策を打つ計画があるようですが、
例えば、労働基準局は「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」を平成28年4月1日に公表しています。
それによると、平成27年4月から12月までの間に、
「1カ月当たり100時間を超える残業が行われた疑いのある事業場」あるいは
「長時間労働による過労死などに関する労災請求があった事業場」を対象として、
労働基準監督署による「監督指導」を行われました。
その結果「監督指導」を行った8,530事業場のうち、半数を超える4,790事業場で違法な時間外労働があることが分かり、
それらの事業場に「是正勧告」しています。
この「監督指導」によって、1カ月当たり100時間を超えたのが2,860事業場(59.7%)もあり、
さらに595事業場(12.4%)で、時間外労働が150時間を超えた事例、
120事業場(2.5%)で、時間外労働が200時間を超えた事例、
27事業場(0.6%)で、時間外労働が250時間を超えた事例があったことも分かりました。
このように、企業の規模に関わらず、多くの企業において、かなり「劣悪な労働環境」で働いている労働者がいることが分かります。
厚生労働省では、今後もこのような施策を積極的に行っていくとのことです。
このように「不適切な労働時間」で労働者を働かせることは、労働者の健康に悪影響があることはもちろんのこと、
企業業績や経営に大きな打撃がある可能性があります。
反対に「適切な労働時間」で労働者に働いてもらうことによって、労働意欲や労働効率などが向上し、経営にとって良いことが沢山あると思います。
近年、特に「中小企業」は人手不足で、どうしても労働時間が増えてしまうのかもしれません。
繁忙な中で、労働時間を減少させることは非常に難しく、
業務の進め方の見直しや効率化を進めるでけでなく、業務の必要性の判断まで求められる場合もあります。
また「経営者」のコンプラライアンスに対する意識改革が最も大切ですが、「労働者」の教育と意識改革も必要かもしれません。
「経営者」が率先して労働環境改善に努めることはもちろんのと、「労働者」と一緒に解決策を考えていくことも大切です。
例えば、今回「是正指導」を受けた「棚卸サービス企業」では、「再発防止に向けた取組」として、
社長を中心とした「社内プロジェクト」を立ち上げ、外部専門家の助言を得ながら
1)労働時間管理の徹底
2)業務量標準化への取組み
3)業務効率化の推進
そして、その改善状況を随時検証し、必要な対策を講じ、
この実行を担保する体制を構築する。
と報告しています。
「是正指導」される前に、実行しておくべきだったかもしれませんね。
有期雇用の「無期転換ルール」
お天気が不安定です。
関東でも地震がありました。
熊本周辺の方の不安なお気持ちが察せられます。
本日は、有期契約労働者が無期契約に転換する法律の話です。
事業主の皆様はよくご存知だと思いますが、
平成25年に労働契約法が改正されました。
改正点のひとつとして、有期労働契約(1年、6カ月契約のパート、アルバイト、嘱託社員など)が
「繰り返し更新」されて「通算5年を超えた」ときは、
「労働者の申込み」により、期間の定めのない労働契約に転換(以下「無期転換」と呼びます)できることになりました。
これまでも約3割の有期労働契約者が通算5年を超えて更新を繰り返す実態があり、
その下で生じる労働者の「雇止めの不安」を解消し、働く人が「安心して働き続けることができる社会」を実現することが目的です。
この改正法は、平成25年4月1日に施行されたので、
仮に施行日(平成25年4月1日)に契約(または更新)した労働者が継続して契約更新した場合、今から約2年後(平成30年4月1日)には、「無期転換」を申込む労働者が出ることが想定されます。
ですから、事業主の皆様や労働者の皆様も、そろそろ準備をしたほうがいいかもしれません。(既に準備している事業主の皆様も多いと思いますが)
厚生労働省では「無期転換」の時期がくる前に、有期労働契約者が「雇止め」になる場合が増加するのではないかということを懸念しています。
ですから、同省では「無期転換」ができるだけ円滑に進むよう、労使双方に「無期転換後の労働条件のあり方について、労使であらかじめよく話し合い、就業規則や労働契約書などに規定しておく」ことを呼びかけています。
中小企業の事業主の皆様のなかには「無期転換」についてネガティブなイメージをお持ちになっている方もいらっしゃると思います。
ですが、中小企業が「良い人財」を確保することが難しい現状のなかで、「無期転換」がもたらすメリットも大きいと思います。
例えば、
>安定雇用が見込まれ、労働者の意欲が増し、更なる能力向上が期待できる
>会社への忠誠心が増し、必要な人財を確保し続けることができる
>新規採用や教育訓練に係る費用や時間を減少させることができる
などがメリットとして考えられます。
さらに「無期転換」し「キャリアアップ等の促進」の取組を実施した事業主に対して「助成金」を支給する制度もあります。
いくつか例を挙げると、
>有期契約労働者等の正規雇用労働者・多様な正社員等への転換等の助成金(最高60万円/人)
>有期契約労働者等に対する職業訓練の助成金(最高50万円/人)
>有期契約労働者等の賃金テーブルの改善、健康診断制度の導入、短時間労働者の週所定労働時間を社会保険が加入できるよう延長することの助成金(最高300万円)
詳細については省略しますので、お近くの専門家(ハローワーク、社労士等)にお尋ねください。
事業主の「無期転換」へ移行する手順については、以下の3つのステップが、厚生労働省から提案されています。
【ステップ1】現場における有期契約労働者の活用実態を把握する
>有期労働契約者の人数、社内規定、運用実態、業務内容、今後の働き方やキャリアに関する希望等について把握します。
【ステップ2】有期契約労働者の活用方針を明確化し、「無期転換」への対応の方向性を検討する
ひとつの例をあげれば、
>「恒常的な基幹業務」を担当している有期労働契約している人は、「無期転換」を前提に契約し、
「恒常的な補助業務」を担当している方は、業務量、意欲、能力、働き方の希望を考慮し、長期勤続が見込まれる人については「無期転換」について話し合って納得する契約をし、
また、「スポット的業務(短期、季節性)」については、5年以内になるよう、期間に合わせた適正な契約期間とする
などが考えられます。
【ステップ3】「無期転換」後の労働条件をどのように設定するか検討する
例えば、以下の3つのパターンの労働条件にすることが考えられます。
1)有期契約労働者を「無期契約労働者」に転換する場合は、契約期間が無期になるが、労働条件は有期契約労働契約時と同一とする
2)有期契約労働者を「多様な正社員区分(職務限定社員、エリア限定社員)」に転換する場合は、職務の範囲や勤務地の限定などを勘案した労働条件を適用する
3)有期契約労働者を「正社員」に転換する場合は、既存の正社員区分の労働条件を適用する
これらを自社の状況に応じて、組み合わせ、段階的に転換していくこともできます。
なお、平成27年4月1日に「専門的知識を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」が施行され、
1)高度な専門的知識等を有する有期契約労働者が 2)定年後引続き雇用される場合、
適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定されたときは、
一定の期間については、「無機転換」申込権が発生しない、という特例が設けられています。
いずれにしても、「無期転換ルール」が実際に始まる時期が近づいています。
会社の人財確保と活用のためにも、労働者の雇用の安定と不安解消のためにも、
円滑に仕組みが導入されることが望まれていると思います。