へんてこ社労士のときどきブログ

さかべ社会保険労務士事務所オフィシャルブログ

年功賃金崩れる?「同一労働同一賃金」ガイドライン案

新たな年が始まりました。


今年もこのブログに、労務や社会保険などについて目に留まったことを、「ときどき」書いていこうと思います。


このブログをご覧くださっている皆様には、心より御礼申し上げます。


いろいろと騒がしい世の中ですが、今年が良い年になりますようお祈りいたします。


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今回は同一労働同一賃金について、昨年末、少し動きがあったので、それについて書きます。


安倍総理が、平成28年の当初から「一億総活躍国民会議」や「働き方改革実現推進会議」や国会などで度々発言していた同一労働同一賃金」のガイドラインが、平成28年12月20日、政府から公表されました。


これは「正規雇用労働者(正社員、無期雇用フルタイム労働者)」と「非正規雇用労働者有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)」の不合理な待遇差を無くし


日本から非正規雇用」という言葉を一掃することを目指すために出されたもので、


このガイドライン案をもとに、法改正の立法作業を進めるとともに、関係者の意見や国会審議を踏まえて、最終的に確定するものです。


ですから、今後、この内容がどのように立法に生かされるのか分かりませんが、


もし仮にガイドライン案の通り」に法改正が進めば、「非正規雇用労働者」という「だけ」で、不合理な低い処遇はできないことになると思います。


反対に「正規雇用労働者」という「だけ」で、賃金が高いなどの高待遇になることも無くなると思います。


というのは、企業に対して、賃金が高いあるいは低いなどの待遇の違いの理由を「合理的に説明」することを求めることまで踏み込んでいるからです。


(「将来の役割期待が異なるから」などの主観的・抽象的説明では不足、としています。また、企業の説明責任については触れていますが、司法判断の際の立証責任についてどうなるかは今後の立法の注目点だと思います。)


ですから、例えば「有期雇用労働者」に対して「正社員」より低い賃金を支払うには、その違いを客観的・具体的な実態を示さなければなりませんし、


逆に言えば、例えば「正社員」に対して「有期雇用労働者」より高い賃金を支払うには、「価値の高い労働をしている」ことを客観的・具体的な実態を示さなければならないことになると思います。


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このガイドライン案では、「正規雇用労働者」と「非正規雇用労働者」の待遇差が不合理である場合不合理でない場合の典型的な事例が具体的に付されています。


日本では欧州と異なり、賃金の決まり方が様々な要素が組み合わさり複雑な場合が多いので、


賃金の種類と基準・条件を「場合分け」して


「処遇差を認めること」や「処遇差を認めないこと」の原則を、事例を示して説明しています。


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では、その内容の概略を説明します。


「基本給」については、「正規雇用労働者」と「非正規雇用労働者」で下記の条件がそれぞれ同一であれば、同一の支給をしなければなりません。また、一定の違いがあれば、その相違に応じた支給をしなければなりません。


1)労働者の「職業経験・能力」に応じて支給しようとする場合、

同一の職業経験・能力を蓄積していれば、それに応じた部分につき、同一の支給しなければならない。一定の違いがあれば、その相違に応じた支給をしなければならない。


<問題となる例> 現在行っている業務と「関連性がない職業経験」が「多い」ことを理由として「正規雇用労働者」に対し「非正規雇用労働者」より多額の基本給を支給すること


2)労働者の「業績・成果」に応じて支給しようとする場合、

同一の業績・成果を出していれば、それに応じた部分につき、同一の支給しなければならない。一定の違いがあれば、その相違に応じた支給をしなければならない。


<問題となる例> 「正規雇用労働者」が販売目標を達成した場合に支給している業績給を、「労働時間が短い非正規雇用労働者」が正規雇用労働者の販売目標に届かない」ことを理由に支給しないこと


3)労働者の「勤続年数」に応じて支給しようとする場合、

同一の勤続年数であれば、それに応じた部分につき、同一の支給しなければならない。一定の違いがあれば、その相違に応じた支給をしなければならない。


<問題となる例> 有期雇用の更新を続けている「非正規労働者」の勤続年数を、当初の雇用契約開始時から「通算しない」こと


また、「基本給の昇給」について、勤続による職業能力の向上に応じて行う場合、


正規雇用労働者」と「非正規雇用労働者」が同様の勤続により職業能力が向上していれば、同一の昇給をしなければなりません。また、一定の違いがあれば、その相違に応じた昇給をしなければなりません。


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賃金に含まれる「手当」については、「正規雇用労働者」と「非正規雇用労働者」の「処遇差を認める手当」「処遇差を認めない手当」に分けています。


〇「処遇差を認める手当」

「賞与」「役職手当」は、下記の条件がそれぞれ同一であれば、同一の支給をしなければなりません。また、一定の違いがあれば、その相違に応じた支給をしなければなりません。


1)「賞与」について、会社の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合、


<問題とならない例> 「正規雇用労働者」は生産効率や品質目標に責任を負っており、目標未達の場合はペナルティが課されていて、「非正規労働者」は目標達成の責任を負わず、処遇上のペナルティーを課していない場合、ペナルティを課していないこととの見合いの範囲内で、賞与を支給しないこと


<問題となる例> 「正規雇用労働者」と同一の会社業績への貢献がある「非正規雇用労働者」に同一の賞与の支給をしていないこと


2)「役職手当」について、役職の内容、責任の範囲に対して支給しようとする場合、


<問題とならない例> 「正規雇用労働者」と同一の役職名で役職の内容・責任も同一であるが労働時間半分の「パートタイムの非正規雇用労働者」に、半分の額の「時間比例の役職手当」を支給すること


<問題となる例> 「正規雇用労働者」と同一の役職名で役職の内容・責任も同一である「非正規雇用労働者」に、低額の役職手当を支給すること


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〇「処遇差を認めない手当」(全ての労働者で同一にしなければならない手当)


正規雇用労働者」と「非正規雇用労働者」で「処遇差を認めない手当」としては、以下のものが挙げられています。


1)業務の危険度または作業環境に応じて支給される「特殊作業手当」


2)交替制勤務など勤務形態に応じて支給される「特殊勤務手当」


3)「精皆勤手当」


4)「時間外労働手当」


5)「深夜・休日労働手当」


6)通勤手当・出張旅費」


7)勤務時間内に食事時間が挟まれている労働者に対する食費の負担補助として支給する「食事手当」


8)「単身赴任手当」


9)特定の地域で働く労働者に対する補償として支給する「地域手当」


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〇その他「処遇差を認めないこと」(全ての労働者は同一処遇にしなければならないこと)

「福利厚生」「教育訓練」「安全管理」に関することも「処遇差を認めない事項」として挙げられています。


1)「福利厚生」

> 福利厚生施設(食堂、休憩室、更衣室)

> 転勤者用社宅

> 慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障

> 病気休職

> リフレッシュ休暇等の法定外休暇


2)現在の職務に必要な技能・知識を習得する教育訓練


3)安全管理に関する措置・給付


上記の事項については、「正規雇用労働者」と「非正規雇用労働者」の間で条件がそれぞれ同一であれば、同一の支給をしなければなりません。


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このガイドライン案には、法的拘束力はありませんが、今後の法改正に影響を与えると思います。


そして、このガイドラインでは「同一労働同一賃金」の実現に向けて「各企業」において、職務や能力等の明確化し、それに対する賃金等の処遇体系全体を構築し、公正な評価を推進することを、「労使の話し合い」で速やかに進めることが望ましい、としています。


ですから今後の法改正によっては、企業にとって人件費も含めて大きな負担が懸念されるかもしれません。


一方「正社員」として安泰であった労働者にとっては、年功賃金の慣習も大きく崩れ、もしかすると厳しい状況になるかもしれません。


しかし、労働者全体の4割にもなってしまった「非正規雇用労働者」にとっては、不当な格差解消は必要なことだと思います。


今後も、どのような法改正が行われるのか、注視していく必要があると思います。


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変わる変わる労働法

日々せわしく動き回っているうちに、


いつの間にか平成28年も最後の月になってしまいました。


今年もいろいろな出来事がありました。


リオオリンピック、イギリスのEU離脱、アメリカ大統領選、韓国の大統領の疑惑、都知事選と築地移転とオリンピック問題・・・他にも大きな事件が沢山あったと思います。


これらいくつかの大きな出来事から、何となく世界中で「今までの流れと異なるうねり」が始まっているように感じてしまいます。


来年はどんな年になるのでしょうか。良い年になるといいですね。


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今回は、改正された主な労働関連法についてまとめようと思います。


長くなってしまいますが、読み飛ばしながら、全体のイメージを捉えていただければと思います。





最近、「労働」に関する法律これまでにないスピードで次々に改正され、また立法化されています。


その背景にあるのは、


近年、社会的ネットワーク(SNS)などによって、「働き方に対する様々な問題」が浮き彫りになり、


長時間労働によるうつ病の増加や、過労死などの事件の発生、職場でのセクハラやパワハラのような嫌がらせ問題の増加、非正規労働者の増加と格差の拡大など、多くの深刻な社会問題を改善するためであることは言うまでもないと思います。


一方、さらに別の視点で見ると、


アベノミクスの成長戦略として「労働政策」をその柱と位置づけていることも大きく影響していると思います。


例えば成長戦略に必要なこととして、


「デフレ脱却」のために労働者の賃金のベースアップが重要であり、いわゆる「官製春闘」により、本年度も地域別最低賃金を大幅に引き上げました。


また長期的な「成長産業の育成」のためには、失業を抑えながら労働力を成長分野に移動させていくことが必要であり、


さらに「減少していく労働力への対応」のためには、女性、高齢者、障害者、外国人そして未就労の若者等、全て人の活用が必要であり、


「労働力の質を価値の高いものに変えていく」ためには、非正規労働者(有期労働者、派遣労働者等)と正社員等との間の不当な格差の是正や待遇を改善することが必要であり、


そして労働生産性を上げる」ためには、長時間労働に依存する働き方を変え、能力ある人材の雇用を維持できるようにし、仕事と生活の均衡のとれた健康的な職場環境に変えることを支援することが必要になります。


政府や与党としては、アベノミクスを推し進める重要施策のひとつ として、近年、労働関連法を次々に改正しているのではないかと思います。


では実際、近年、どのくらい多くの労働関連法が変わっているのでしょうか。


この4年間で変わった主な16の法律を大くくり(分類は個人的判断です)にして、


以下に改正のポイントをまとめてみます。


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【Ⅰ.成長産業の育成のための労働力移動】

失業を抑えながら新たな分野への職業転換(同一企業内も含む)を可能とするために、労働者に対するキャリアコンサルティングや職業能力の拡大の支援のための法律を改正しています。



1)職業能力開発促進法の改正(平成27年10月および平成28年4月施行)

労働者が自らキャリア開発(長期的、計画的な職能開発)できるよう支援する仕組みを強化しています。

≪ポイント≫

> ジョブ・カード(職務経歴等記録書)を法律上に位置づけ普及促進(平成27年10月施行)

> 労働者自身にもキャリア開発の責任(平成28年4月施行)

> 事業主に労働者のキャリア開発の支援することを(努力)義務(平成28年4月施行)

> 事業主が行うキャリア開発支援の中核にキャリアコンサルティングを置き、必要に応じて講じる措置を規定(平成28年4月施行)

> 「キャリアコンサルタント」を国家資格化(平成28年4月施行)

> 退陣サービス分野で働く人に対する技能検定を構築(平成28年4月施行)


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【Ⅱ.労働力減少への対応】

人口減少社会に対応するために、女性、高齢者、若者、障害者、そして外国人等一億総活躍社会」を目指し、立法や法律改正を行っています。



1)次世代育成支援法の改正(平成26年4月および平成27年4月施行)
子育てを職場ぐるみで行うことを規程した法律を延長し、強化をしています。(従業員100人以下の企業においては努力義務)

≪ポイント≫

> 職場ぐるみで子育てをサポートするため、仕事と子育ての両立について企業が行動計画を立て届け出ることを定めた同法を10年間延長(平成26年4月施行)

> 優良な企業に対する新たな認定制度の創設(平成27年4月施行)



2)女性活躍推進法(平成28年4月施行)
主に大企業に対し女性活躍のための行動計画の策定、目標の実施状況と課題の分析の報告義務を課しています。(従業員300人以下の企業は努力義務)

≪ポイント≫

> 301人以上の労働者を雇用する事業主は、女性の活躍状況(採用者に占める女性比率、勤続年数の男女差、労働時間、管理職に占める女性比率)を把握し、課題分析の義務

> 上記を踏まえた①行動計画の策定、②労働者への周知、③外部への公表、④届出の義務

> 自社の女性の活躍に関する情報の公表と優良な企業の認定


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3)高年齢雇用安定法の改正(平成25年4月施行)

60歳以降の就労促進のために、企業が雇用確保措置を充実させるための法律として強化しています。

≪ポイント≫

> 継続雇用制度の対象者を制限できる仕組みを廃止(希望者全員が対象になる可能性)

> 継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業まで拡大する仕組みを設定

> 義務違反に対する勧告に従わない企業名を公表
> 事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施および運用に関する指針の策定


4)雇用保険法の改正(平成29年1月施行)

65歳以上の高齢者も現役で働き続けられるよう雇用保険法を改正しています。

≪ポイント≫

> 現行では雇用保険の適用除外となっている65歳以上の雇用者も雇用保険の対象(平成32年度より、64歳以上の雇用保険料の徴収開始)

> 65歳以上の「高年齢被保険者」は、要件を満たせば、高年齢求職者給付金、育児休業給付金、介護休業給付金、教育訓練給付金の支給対象

> その他、雇用保険料率の引下げ、および介護休業給付の引き上げ


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5)若者雇用促進法(平成27年10月、平成28年3月および平成28年4月施行)

未就労の若者に対する適切な職業選択の支援職業能力を向上させる措置等、就業しやすい環境を整えるための法律です。

≪ポイント≫

> 事業主、職業紹介事業者、国および地方自治の青少年の雇用における責務の明確化と相互連携(平成27年10月施行)

> 若者の適切な職業選択のため、

  ・事業主による職場情報の提供の義務化(平成28年3月施行)

  ・ハローワークは、一定の労働関係法令違反があった事業所の新卒求人を一定期間不受理(平成28年3月施行)

  ・若者の雇用管理の状況が優良な従業員300人以下の企業に大臣による認定制度の創設(平成27年10月施行)

> 若者の職業能力の開発・向上および自立の促進のため、

  ・国は地方公共団体と連携し、職業訓練の推進ジョブ・カード(大臣が定める職務経歴等記録書)の普及促進(平成27年10月施行)

  ・ニートなどの青少年に対し、相談機会の提供自立支援のための施設(地域若者サポートステーション)の整備(平成28年4月施行)

> ハローワークが学校と連携し、「中退者」の職業指導および職業紹介 (職業安定法の改正 平成27年10月施行)


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6)障害者雇用促進法の改正(平成28年4月および平成30年4月施行)

雇用における障害者に対する差別の禁止、働く場合の支障を改善する措置を定めています。また、精神障害者の雇用についても算定されることになります。

≪ポイント≫

> 障害を理由とする差別的取扱いを禁止および働く際の合理的配慮の提供義務(平成28年4月施行)

> 法定雇用率(障害者の雇用義務)の算定に精神障害者加える(平成30年4月施行)

> 事業主は、相談窓口の設置など、障害者からの相談に適切に対応する体制の整備する義務、および苦情を自主的に解決に解決する努力義務(平成28年4月施行)


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7)出入国管理法の改正(平成27年4月および平成27年1月施行)

外国人の人材を受け入れ易くなるよう改正しています。

≪ポイント≫

> 高度な専門的能力のある外国人の人材の受け入れ促進のために「高度専門職」という新たな在留資格を設け、活動制限を大幅に緩和し、在留期間を無期限とすることも可能に(平成27年4月施行)

> 「国内資本企業」において事業の「経営・管理活動」ができる在留資格を設け、これまであった「外国資本との結びつき」の要件を削除(平成27年4月施行)

> これまでの専門的区分「技術」(理系)と「人文知識・国際業務」(文系)を一本化し、包括的な「技術・人文知識・国際業務」としたことで、企業等のニーズに柔軟に対応可(平成27年4月施行)

> 低年齢からの国際交流に資するため、外国人の中学生、小学生にも在留資格「留学」を付与(平成27年1月施行)


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【Ⅲ.労働力の質の向上、不当な格差の是正】
雇用形態が異なることで不当な賃金格差や労働条件の格差が生じ、社会的格差の固定化が進み労働力の質の低下を招く可能性があるため、これを是正するための立法や改正が行われています。



1)労働契約法の改正(平成24年8月、平成25年4月、平成26年4月および平成27年4月施行)

有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めの不安を解消し、安心して働き続けられるように改正されています。

≪ポイント≫

> 有期労働契約を5年間繰返し更新すると、労働者の申し込みにより無期労働契約に転換可能(平成25年4月施行)

> 有期労働契約の「雇止め」の要件の明確化(平成24年8月施行)

> 有期契約労働者と無期契約労働者の不合理な労働条件の相違の禁止(平成25年4月施行)

> 大学や研究開発法人で有期労働契約で働く研究者の無期転換申込権発生までの期間を10年とする特例(平成26年4月施行)

> 高度専門知識等を有する有期雇用労働者および定年後に継続雇用される者の無期転換申込権発生までの期間延長の特例 (特別措置法 平成27年4月施行)



2)パートタイム労働法の改正(平成27年4月施行)

短時間労働者の公正な待遇を確保し、労働条件を理解し納得して働くことができるよう法律を改正しています。

≪ポイント≫

> パートタイム労働者(有期労働契約の短時間労働者も対象)の公正な待遇と不合理な取扱いの禁止

> パートタイム労働者の納得性を高めるための措置の義務

 ・雇い入れ時の雇用管理について説明義務

 ・説明を求めたことによる不利益取扱いの禁止

 ・相談に対応する体制整備の義務

 ・相談窓口の周知義務

> 厚生労働大臣の勧告に従わない場合の事業主名の公表や虚偽の報告等に対して過料の新設

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3)待遇確保法〈別名:同一労働同一賃金法〉(平成27年9月施行)

雇用形態が多様化する中で、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性の格差が存在し、これが社会での格差の固定化に繋がることが懸念されています。それらの状況を是正するため、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進を、国に義務付けています。

≪ポイント≫

> 国は労働者の職務に応じた待遇の確保等の施策の策定および実施の義務

> 国は労働者の雇用形態による職務の相違、および賃金、教育訓練、福利厚生その他の待遇の相違の実態の調査研究の義務

> 国は雇用形態の異なる労働者について、その待遇が不合理にならないよう必要な施策を講ずる義務

> 政府は3年以内に、派遣労働者と派遣先に雇用される労働者との、業務の内容および責任の程度などに応じた均等な待遇および均衡のとれた待遇を図るための法制上の措置等を講ずる義務



4)労働者派遣法の改正(平成27年9月および平成27年10月施行)

派遣労働は、「臨時的・一時的なもの」であることを原則とするという考え方のもと、正社員の常用代替を防止し、より一層の雇用の安定、キャリアアップを図ることを目的として改正しています。

≪ポイント≫

> 労働者派遣事業については届出制は廃止し、すべて許可が必要(平成27年9月施行)

> 派遣労働者の雇用の安定のために派遣元から①派遣先への直接雇用の依頼、②新たな派遣先の提供、③派遣元での無期雇用の措置およびキャリアアップ措置の実施、均衡待遇の推進、派遣先の雇入れ努力義務(平成27年9月施行)

> 同一の派遣先の事業所に対し派遣期間を原則3年とし、同一の派遣労働者を、同一の組織単位に派遣できる期間も3年が限度(平成27年9月施行)

> 違法派遣を受け入れた場合、その時点で、派遣先が同一の労働条件で労働契約(直接雇用)の申込みとみなす制度に(平成27年10月施行)


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【Ⅳ.労働生産性の向上、労働環境の改善】
労働生産性を上げるために、必要以上の長時間労働を減らし、有能な人材の雇用を維持し、仕事と生活の均衡のとれた、健康的な職場環境にするための法律改正が行われています。



1)労働安全衛生法の改正(平成27年6月、平成27年12月および平成28年6月施行)
最近の化学物質による胆管がんの発生や、長時間労働等を原因とする精神障害などの労災認定数の増加等に対応し、労働者の安全と健康の確保の対策に向けて改正されています。

≪ポイント≫

> 化学物質のリスクアセスメント(事業場の危険性、有害性の特定、見積り、提言措置等)の実施義務(平成28年6月施行)

> 労働者50人以上の事業所にストレスチェックの実施等の義務化(平成27年12月施行)

> 受動喫煙防止措置の努力義務化(平成27年6月施行)

> 重大な労災を繰り返す企業に対し、大臣が指示、勧告、公表(平成27年6月施行)



2)過労死防止等対策推進法(平成26年11月施行)
近年の過労死等の多発に対応し、国および政府は過労死等の対策を推進し、仕事と生活を調和させ、健康で働き続けることのできる社会の実現する義務を課しています。

≪ポイント≫

> 政府は「過労死等の防止対策の大綱」を定める義務

> 国は過労死防止のため、①調査研究等、②啓発、③相談体制の整備等 ④民間団体の活動に対する支援を行う義務

> 政府は、必要があるときは、過労死等の防止に必要な法制上または財政上やその他の措置を行う義務


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3)育児介護休業法の改正(平成29年1月施行)

介護や育児をしながら働く有期契約および無期契約労働者が、介護休業・育児休業を取得しやすくするように改正しています。

≪ポイント≫

> 介護を必要とする対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として(これまで1回)、介護休業を分割して取得可能

> 介護休暇(1年に5日、対象家族が2人以上の場合は10日)を半日単位(これまで1日単位)での取得可能

> 介護休業とは別に(これまで介護休業93日の範囲内)、介護のための所定労働時間の短縮措置を3年間で2回以上の利用が可能

> 対象家族1人につき、介護終了まで、介護のための残業の免除が可能

> 有期契約労働者の育児休業の取得要件の緩和

> 子の看護休暇(1年に5日、子が2人以上の場合は10日)を半日単位(これまで1日単位)での取得可能



4)男女雇用機会均等法の改正(平成29年1月1日施行)
育児休業、介護休業等を理由とする嫌がらせ等を防止措置を新設し、さらに派遣社員にも適用を拡大しています。

≪ポイント≫

> 事業主のみでなく、「上司・同僚からの」妊娠・出産、介護休業等を理由とする嫌がらせ等を防止する措置等講じることを事業主に新たに義務付け

> 派遣労働者派遣先にも、育児休業等の理由とする不利益取扱いの禁止や、妊娠・出産、育児休業、介護休業等を理由とする嫌がらせ等の防止措置の義務付け


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このように近年、数多くの労働関連法が改正されてきましたが、


今後もおそらく労働関連法の改正が続くことが予想されます。


例えば、平成27年から国会で「労働基準法」についての改正案が審議されています。


具体的には、


> 「高度プロフェッショナル制度」で一定の年収要件(少なくとも1,000万円以上)を満たす労働者が、高度な専門的知識が必要な業務に従事する場合に、本人の同意や委員会の決議などを要件として、労働時間外、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とすること。


> 既に大企業に適用している月60時間を超える時間外労働に関する割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止すること。

> 年次有給休暇の取得促進のために、使用者は、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、そのうちの5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととすること。


> フレックスタイム制の「清算期間」の上限を1か月から3か月に延長する。併せて、1か月当たりの労働時間が過重にならないよう、1週平均50時間を超える労働時間については、当該月における割増賃金の支払い対象とすること。


などについて検討を進めているそうです。


また、平成28年11月28日に公布され、1年以内に施行されることになっている「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」では


多くの事業場で働く外国人技能実習生の「技能実習の適正な実施」および「技能実習生の保護」を図ることを目的としています。


それ以外にも、三六協定の上限時間や「同一労働同一賃金」に関するいくつかの法案についても検討しているようです。


労働に関する問題は、現在、社会の関心のある最も大きな話題のひとつだと思います。


どれも簡単に解決できるものではありませんが、法律改正で本当に良い方向に変わるかどうか、これからもしっかりと追っていくことは大事だと思います。


皆様も、身近に関わることだと思いますので、これからも是非、労働関連法について関心を持ち続けてください。



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「イクボス」ご存知ですか?

台風などの影響で天気が不安定な間に、いつのまにか蝉の声もほとんど聞こえなくなってしまいました。


今は秋の虫の声が少しづつ増えてきているような気がします。


なんとなく秋めいてきました。


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ところで、


「イクボス」という言葉を聞いたことがありますか?


不勉強な私は、残念ながら全く知りませんでした。(よくご存じの方、すみません)


栃木県が出した「とちぎイクメン」のパンフレットを見て初めてこの言葉を知り、ちょっとだけ調べてみましたのでご紹介します。


おそらく勘のいい皆様は、この言葉を聞いただけでもう「ピンときた」と思います。


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「イクボス」とは、


職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランスを考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果も出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(男性、女性)のことだそうです。


そもそも、男性の従業員や部下の育児参加に理解があり、積極的に支援する経営者や上司のことを指すイクメン」の派生語だそうですが、その対象は、介護、地域活動、日々の生活等まで段々広がっているようです。


最初は、平成25年2月に群馬県で開催した「ぐんまのイクメン・イクボス養成塾」で、「イクメン」に対応する言葉として「イクボス」が使い始められました。


平成26年3月からは、「特定非営利活動法人ファザーリングジャパン」(後援:内閣府男女共同参画局厚生労働省、にっぽん子育て応援団)という組織が「イクボスプロジェクト」という活動を行っています。


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このプロジェクトでは「イクボス10か条」というのを掲げていますので、ご紹介します。


「イクボス」に求められている条件というのは、


① 理解
部下が、子育て・介護・地域活動などのライフに時間を割くことへ、理解を示していること


② 多様性

ライフに時間を割いている部下を、差別せず、ダイバーシティー(多様)な経営をしていること


③ 知識
ライフのための社内制度(育休制度など)や法律(労基法など)を、知っていること


④ 組織浸透
管轄している組織全体に、ライフを軽視せず積極的に時間を割くことを推奨し広めていること


⑤ 配慮

転勤や単身赴任など、部下のライフに大きく影響を及ぼす人事については、最大限の配慮をしていること


⑥ 業務
育休取得者などが出ても業務が滞らないよう、情報共有チームワーク醸成などの手段を講じていること


⑦ 時間捻出
部下がライフの時間を取りやすいよう、会議や書類の削減、意思決定の迅速化などを進めていること


⑧ 経営目標
ボスの上司や人事部などに対し、社員のライフを重視した経営をするよう、提言していること


⑨ 自らWLB(ワークライフバランス

ボス自ら、仕事×私生活×社会貢献というワークライフバランスを重視し、楽しんでいること


⑩ 業績達成
組織の長として、職務を全うし、業績やコミットメントを果たしていること


とされています。


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一方、「イクボス」が「イクメン」に理解を示して、その活躍を支えると、以下のようなメリットがあるそうです。


1)「人」としての成長(イクメン

> 言葉の通じない子どもと接することで「高いコミュニケーション力」が身につく


> 限られた時間で育児をこなすことでタイムマネジメント力」が身につく


> ストレスの溜り易い育児をすることで「ストレスマネジメント力」が身につく


> 家族みんなで育児をすることになるので「チームマネジメント力」が身につく


> 親としての新たな経験が身につくので「企画開発能力」が高まる


2)「企業」としての成長


> 残業をしないという意識や、仕事の優先順位を見極める力がつくので「時間当たりの生産性」が高まる

> 家事育児も経験することで「互いを思いやる風土」が職場に生まれる


3)「日本経済」の成長

> 男性が育児に関わることで「女性活躍の後押し」ができる

> 男性の家事の時間が増えると「第2子の出生率が高くなる」という厚労省のデータ(2011年)がある


4)「子どもの心」の成長


> 男性が積極的な育児をすると、子どもの「知能」「精神」「学術」「社会性」に好影響が出るというデータ(Public Health Agency of Canada 2007)がある


「イクボス」が「育児」だけでなく「介護等」への理解を示し部下を支えることで、やはり、上記と同様のメリットがあると思われます。


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「イクボス」については、大手新聞各社やNHKなどでも取り上げられ、また、イクボスプロジェクトでは、イクボス企業同盟等には多くの有名な企業が協賛しているようです。


また、多くの地方自治体や大学などでも、「イクボス宣言」をしています。


私は不勉強でよく知らなかったのですが、「イクボス」は浸透しつつある言葉だったのですね。


今後は、実際に、社会、組織、および人が、この「言葉に合うように変わっていく」ことが求められているのかもしれません。



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会社のマタハラ対策が義務化です!

リオのオリンピックでは、日本の選手が大活躍でしたね。


テレビを沢山観ました。メダルを取る取らないにかかわらず、すごく感動しました。


4年後の東京オリンピックも楽しみです。


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今回は「マタハラ対策」に関する法律改正、および政府の指針について少し書いてみます。


雇用保険等の一部を改正する法律(育児・介護休業法、男女雇用機会均等法雇用保険法等の改正)」が、
平成28年3月29日に参議院本会議で可決され、3月31日に公布されました。


これを受けて、平成29年1月1日から、改正された「育児介護休業法」や「男女雇用機会均等法(以下、均等法)」などが施行されます。


これら改正法の目的は、


妊娠・出産・育児期や家族の介護が必要な時期に、男女ともに離職することなく働き続けることができるよう、仕事と家庭が両立できる社会の実現を目指し、雇用環境を整備する」ことで、


仕事と介護の両立支援」「仕事と育児の両立支援」「’妊娠・出産・育児・介護’をしながら継続就業できる就業環境の整備」のための改正がされています。


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改正された事項はいろいろありますが、要点をまとめると、


1)介護離職を防止することと、仕事と介護の両立を可能とする制度の整備するために、


> 介護休業(93日)を3回を上限として分割取得できること

> 介護休暇(介護休業ではない)を半日単位の取得ができること

> 介護休業とは別に、所定労働時間の短縮措置等を3年間で2回以上の利用が可能なこと

> 介護終了までの期間、所定外労働の免除請求できること

> 有期契約労働者の介護休業取得要件を緩和すること


などが現行法と変わります。


2)多様な家族形態・雇用形態に対応した育児期の両立支援制度の整備として、


> 子の看護休暇(年5日、子が2人以上10日)を半日単位の取得ができること

> 有期契約労働者の育児休業の取得要件を緩和すること

> 法律上の親子関係に準じる関係特別養子縁組等)の子についても「育児休業等の対象」として追加すること


などが変わります。さらに、


3)妊娠・出産・育児休業・介護休業をしながら継続就業しようとする男女労働者の就業環境の整備として、


> 妊娠・出産・育児休業・介護休業等を「理由」とする、上司・同僚などによる就業環境を害する行為を防止するために、雇用管理上必要な措置をとることが事業主に義務化されること


と改正されることになります。


現行法でも、妊娠・出産・育児休業・介護休業等を「理由」とする「不利益取扱い(解雇、雇止め等)」は禁止されていますが、


さらに、このようなことが起こらないようにするための「防止措置の義務」が新たに追加されることになります。


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今回の改正で特筆すべきことのひとつとして、妊娠や出産を理由に職場で不当な扱いや嫌がらせをする「マタニティーハラスメント(以下、マタハラ)」の対策が義務化されたことだと思います。


政府が、このように企業にマタハラ対策を義務付ける法改正に踏み出した背景にひとつに、最高裁のひとつの判決がありました。


平成26年10月23日の最高裁の判決で、妊娠中の女性労働者が軽易な業務への転換を契機として降格されたことは、均等法の「妊娠や出産を理由にした、解雇その他不利益な取り扱い」に当たり、原則違法としました。


その概要は、


ある病院の訪問介護施設の副主任(管理職手当あり)である理学療法士の女性労働者が、第2子を妊娠し、労働基準法65条に基づいて軽易な業務への転換を要求しました。そして病院は軽易な業務として病院リハビリ科に異動させた後、副主任を免ずる旨の辞令を出しました。


その後、女性労働者は産前産後の休業をし、育児休業を終えて約1年後に職場復帰しましたが、既に後輩の副主任がおり、今後も副主任に任じられないことを知らされました。


性労働者はこれを不服として強く抗議し、その後、この訴訟を提起したそうです。


この最高裁の判決の結果、女性労働者が敗訴とされた1、2審の判決を破棄し、高裁に差し戻し、女性が勝訴しました。


妊娠をめぐる降格処分について、最高裁が均等法違反と判断したのは初めてのことだそうです。


ですから、今回の法改正に大きな影響を与えていると思います。


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ところで、平成27年11月12日の労働政策審議会雇用均等分科会でも


「妊娠等を理由とする不利益取扱い(いわゆるマタハラ)に関する調査結果」が報告されました。


6500社で雇用される25~44歳の女性労働者約26,000人、およびウェブモニターに登録している25~44歳の女性労働者2,500人と25~44歳の雇用経験のある女性2,500人に対して、平成27年9月14日~10月4日までの調査結果です。


その調査によると、


> 職場でマタハラを受けた女性労働者の45.9%「妊娠・出産」自体が原因だと考えています。


> 職場でマタハラを受けた女性労働者の54.4%が「健康だった(不調はなかった)」と思っています。


> 職場でマタハラを受けた女性労働者の19.1%「直属の上司(男性)」がその行為をした者とし、15.2%「直属よりも上位の上司(男性)」を行為者としています。
また11.1%の女性労働者が「直属の上司(女性)」9.5%「職場の同僚、部下(女性)」を行為者と考えています。


> 「不利益取扱い」の内容としては「解雇」「雇い止め」がそれぞれ約2割で、また約半数が「’迷惑’’辞めたら’等、権利を取得しづらくする発言」を受けたとしています。


> 「正社員」より派遣社員」のほうがマタハラを受けています。


> 就業規則等」に明文化された育児休業制度の規定がある事業所の方が、女性労働者がマタハラを受ける確率が低くなっています。


> 「マタハラ防止策に取り組んでいる」事業所の方が「いずれも取り組んでいない事業所」より、女性労働者がマタハラを受ける確率が低くなっています。


> 「マタハラ防止策に取り組んでいる」事業所の方が「いずれも取り組んでいない事業所」より、就業を継続する女性労働者の割合が多くなっています。


この調査結果から、


実際に職場でマタハラの問題が相当の割合で発生しており、会社が対策をとれば減らすことができることが調査結果から想定できます。


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改正均等法の規定に基づいて、平成28年8月2日、マタハラに関して雇用管理上講ずべき措置についての「指針」が告示されました。(厚生労働省告示第三百十二号)


これは、マタハラを防ぐため、企業が実施すべき具体策を示した政府の「指針」で、平成29年1月1日の法律施行に合わせて運用が始まることになります。


この指針では、事業主が職場のマタハラに関して雇用管理上講ずべき措置として、


1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発


> マタハラがあってはならない旨の方針、妊娠、出産等に関する制度の利用ができる旨の説明等を明確にして、管理、監督者を含む労働者に周知・啓発すること

>マタハラの行為者に、厳正に対処する旨の方針や対処の内容を「就業規則等の文書」に規定し、管理、監督者を含む労働者に周知・啓発すること


2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備


> 相談窓口を定め、窓口担当者をおき、マタハラが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や微妙な場合であっても広く相談に対応すること

> マタハラ、セクハラ、パワハラ等の相談窓口として一元的に受け付ける体制の整備が望ましいこと


3)マタハラにかかる事後の迅速かつ適切な対応

> 事実関係を迅速かつ正確に確認し、速やかに被害者に対する配慮の措置を行い、行為者に対する措置も適正に行うこと

> 再発防止に向けた措置を講ずること


4)マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置

> 制度等の利用を受ける女性労働においても、制度等の利用ができるという知識を持つだけでなく、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら、自身の制度の利用状況等に応じて、適切に業務を遂行していくという意識を持つこと等を周知・啓発することが望ましい



5)その他併せて講ずべき措置


> 相談者・行為者のプライバシーを保護する措置を講じ、周知すること

> 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を「理由」として不利益な取扱いをしてはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること


などが、具体的に挙げられています。


さらに、マタハラの対象ととなるような言動も例示され、また、その行為者も「上司」だけでなく「同僚」も対象になります。


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これらの改正法や指針については、大企業だけでなく、すべての企業が遵守することが求められます。


特に中小企業にとっては、


マタハラ対策方針の策定体制整備就業規則・服務規程の作成窓口の設置、社内法、パンフレット等での周知・啓発活動、および研修・講習会の実施等、かなり重い業務になりそうな気がします。


既に先行しているセクハラやパワハラ対策だけでなく、


マタハラについても職場から無くなり、


すべての労働者長期にわたって十分に活躍できる労働環境ができるまで、どの会社にとっても大きなエネルギーが必要なのかもしれません。


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飲み会後でも労災!?

オリンピックが始まりました。


ちょっと前まで、他人事のような気持ちだったのに、


開幕式を見たら、急に気分が盛り上がってきました。


日本の選手には是非頑張って欲しいですね。


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今回は最近あった労災の判決について書こうと思います。


仕事が終わって、会社の上司、同僚や後輩と居酒屋で一杯・・・ということはありませんか?


おそらく多くの飲み会では、仕事や職場などの話題はあっても、仕事そのものをすることはあまり無く


人間関係を深めたり、ストレス解消する場になっているのではないでしょうか?


でも、時には仕事に関係の深い会合やパーティーなどに参加することもあるかもしれませんよね。


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少し前のことになりますが、平成28年7月8日の新聞やインターネット等で、


歓送迎会後の事故、労災と認める最高裁判決」という趣旨の報道がありました。


概要は、


職場の中国人研修生との歓送迎会に参加した社員が、研修生等をアパートまで車で送り(飲酒していない)、残業のために会社に戻る途中、交通事故で亡くなってしまいました。


社員の妻が遺族補償給付(労災保険)と葬祭料の支給請求のため、労災認定を求めて訴訟を起こしましたが、


一審と二審では「会社の従業員有志によって行われた私的な会合」において「任意に行った運転行為」であり、会社の支配下にある状態でされたものとは認められず、業務上のの事由によるものとはいえないとされ、妻の請求は退けられました。


しかし、最高裁では


歓送迎会の参加は有志とされていたものの、上司の企画と呼びかけで開かれ、会社から経費が支払われ「事業活動に密接に関連するもの」であり、また、ほぼ社員全員が参加しており「出ないわけにはいかない状況」にあり、


一方、社員の業務の納期が翌日であり、歓送迎会後に上司が手伝うと言われたが「業務の納期は延長されず、歓送迎会後に再度、職場に戻ることを余儀なく」され、


歓送迎会後、直接的な命令の明示は無かったものの、「上司に代わって社有車で研修生等を送った」といえるので、会社の支配下にあったというべきものとして、


労災(業務災害)であることを認めました。


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一般的に「業務災害」とされるためには「業務遂行性」「業務起因性」が認められるかを判断します。


「業務遂行性」とは、「労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること」であり、


また「業務起因性」とは、「業務と負傷・疾病・死亡(災害)と相当因果関係があること」です。


この事件では、


「業務遂行性」の判断が、最も重要なポイントだったと思います。


つまり「事業主(会社)の支配下にあったかどうか」が判断の違いが判決に影響しています。


実際、この事件の一審、および二審の判決でも、歓送迎会は有志による「私的な会合」であり、「社員が任意に行った運転行為」として「会社の支配下にない」として「業務遂行性が否定」されています。


しかし、最高裁の判決では、この判断が逆転して「業務遂行性」が認められたため、「業務で運転したことで事故で亡くなった」ことになるので、


「業務と死亡には相当因果関係」が存在することになり、当然「業務起因性」も認められました。


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一般的に、これまでは職場の懇親会等後に労働者が災害を被ったとしても、ほとんどの事例で「業務遂行性が否定」されていました。


しかし、この判決では、就業後の私的な会合や飲み会のようなときでも、形式にとらわれず、その事実や内容を深く掘り下げて実態を探求「業務遂行性」の有無を判断しています。


ですから今後は「業務遂行性」がこれまで認められ難かった事案に対しても、個別具体的に検討する方向を示したものとなるかもしれません。


今回の事件では残された遺族の方代理人の方最高裁まで頑張られたことは大変だったと思いますし、


遺族の方には遺族補償年金や葬祭料が支給されることになって、本当に良かったと思います。


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学生アルバイトの労働環境

今年の梅雨は、雨量が少ないまま過ぎてしまうのでしょうか?


小雨の合間に、夏の暑い日差しも垣間見える時期になってきました。


もうすぐ暑い夏です。スタミナつけて乗り越えないと。


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今回は若い人に向けて、「学生アルバイトの労働環境」について少しだけ書いてみます。



経済格差が大きく広がってきた現在、学生でも働いて学費を稼がなければならない人が増えていると思います。


そんな状況の中、学生がアルバイをする際、会社の労働基準法違反により不利益を被ったり、学業に支障をきたしたりするなど、


「社会問題」として注目され始めています。


そこで、厚生労働省では、「学生アルバイト」の労働環境や学業への影響等を把握するために、「学生に対するアルバイトに関する意識調査」平成27年度に行いました。


具体的には、


大学生等(大学生、大学院生、短大生、専門学校生)の意識等調査(平成27年8月27日~9月7日)の結果を、平成27年11月9日に公表し、


高校生の意識等調査(平成27年12月~平成28年2月)の結果を、平成28年5月18日に公表しました。


この調査の結果で注目すべきポイントがいくつかありました。


大学生等の58.7%高校生の60.0%の調査対象者が「労働条件通知書等を交付されていない」と回答し、


口頭でも具体的な説明を受けた記憶がない」と回答した大学生等が19.1%高校生が18.0%ありました。


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実は、労働基準法第15条には、使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して、以下の6項目については「書面により明示しなければならない」とされています。


1)契約はいつまでか(労働契約の期間に関すること、期間の定め無しならその旨)


2)期間の定めがある契約の更新についてのきまり(更新の有無、更新する場合の判断基準など)


3)どこでどんな仕事をするのか(就業の場所、従事する業務)


4)仕事の時間や休みについて(始業と終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日・休暇、交代制勤務のローテーション等)


5)賃金はどのように支払われるのか(賃金の決定、計算と支払方法、締切と支払の時期)


6)辞めるときはどのような決まりがあるのか(退職に関すること、解雇事由を含む)


約6割のアルバイト先では、これを行っていないということになります。


さらに、上記以外の労働契約の内容についても、使用者と労働者は「できる限り書面で確認」する必要があると、労働契約法第4条第2項で定められていますが、


これも行われていないと推測されます。


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また、意識調査の結果から、労働条件等で「何らかのトラブル」があったと回答したのは、大学生等では48.2%高校生では32.6%でした。


トラブルの中では、大学生等も高校生「シフトに関するもの」が多いのですが、


以下のようなトラブルがあったことが、この調査で回答されています。


> 1日に労働時間が6時間を超えても休憩時間がなかった

> 働いた時間分の全てがアルバイト代として計算されていない(タイムカード打刻後に働かされたなど)

> 準備や片付けの時間に賃金が払われなかった

> 時間外労働、休日労働、深夜労働について、割増賃金が支払われなかった

> 満18歳未満で原則禁止されている深夜労働、休日労働させられた


これらは、労働基準関係法令に違反しているおそれがあります。


それ以外にも


> 採用時に合意した以上のシフトを入れられた

> 採用時に合意した仕事以外の仕事をさせられた

> 一方的に急なシフト変更を命じられた

> 一方的にシフトを削られた

> 給与明細書がもらえなかった


などのトラブルがあったという回答もありました。


当然のことですが、学生にとって学業を修めることは重要なことです。


しかし、使用者が「学生」をアルバイトとして雇っているということを知りながら、試験の準備期間や試験期間に休みを与えなかったり、シフトを入れたり変更したりすることは、使用者としての配慮に欠けることだと思います。


もちろん、会社としては悪意ではなく法律を知らなかったり、アルバイトということでうっかり手続きを省略してしまったりしていることもあると思います。


ですから、学生のみなさんは、アルバイトをするに当たって、


「労働条件をしっかり確認」することが大切だと思います。


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学生アルバイも、「会社の指揮命令下で働いて賃金を支払われている」わけですから、他の労働者と同じように、


1)賃金(バイト代)は、毎月、決められた日に全額支払われます


2)残業手当(割増賃金)は支払われます


3)条件を満たせば(6カ月以上継続、8割以上の出勤など)有給休暇が取れます


4)仕事中にケガをすれば労災保険が使えます


5)会社都合の勝手な解雇はできません(社会の常識にかなう納得できる合理的な理由が必要)


6)都道府県で決められた最低賃金以上の時給の賃金がもらえます


7)もし辞めさせてもらえないようなことがあっても、あらかじめ契約期間が定められていないときは、少なくとも2週間前までに退職の申し出をすれば、法律上はいつでも辞めることができます。
(ただし、就業規則で退職手続が定められている場合、その内容が合理的であれば従う必要があります。また、契約期間に定めのある労働契約を結んでいる場合、途中で退職することは、やむを得ない事由がある場合を除き、原則としてできません)



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多くの学生のみなさんは、いずれ何処かの組織で働くことになると思います。


ですから、労働関係の最低限のルールは知っておいたほうがよいと思います。(最初から社長になるとしても)


会社にとって「人を大切にする会社」は、長期的に、成長・発展し、社会の信頼性が高まっていくことはわかっていると思いますし、


短期的にも、労働環境をより良くしていくことは会社の業績向上に繋がると考えている会社は多いと思います。


ですから会社の規模に関係なく、労働環境の良い会社や、改善する意欲のある会社は沢山あるので、


今後それをしっかり見極めるためにも、


アルバイトをするにあたって、(学業を疎かにしないことはもちろんですが)


「社会人としての基礎知識」
「会社を見る眼識」を、身に付けるよう努めてみたら如何でしょうか。


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「ホワイト企業」の証明

7月7日は七夕ですね。(地域によっては8月7日ですが・・・)


子供のころは、短冊に願い事を書いて飾り物を竹に飾り、


クリスマスツリーのように感じ、何だかいいことがありそうな気がして楽しかったけれど、


年を重ねてからは、人の飾った七夕飾りを何気なく見るだけになってしまいました。


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さて、本日の話題になります。


見知らぬ会社に求職する時や、新たな取引を開始する時、


「相手はどんな会社なのか」をインターネットで会社のホームページを調べることはありませんか?


でも、その会社自身が作ったホームページを、本当に100%信じられるでしょうか?


昨今「ブラック企業」という言葉が普通に使われ、


一部の企業による長時間労働」「未払い残業」「社会保険、労働保険の未加入」「セクハラ、パワハラなどが大きな社会問題になっていることはご存知の通りです。


私たちは、そのような労務管理の問題に「適正に取り組んでいる会社」に採用されたいし、また仕事の取引したいと思い、


出来るだけ正しい情報を知りたいと思いますよね。


でも実際にはブラック企業と言われる会社は、会社自身の作ったホームページに「自社の悩みや問題点」はおそらく書かないと思います。


一方ホワイト企業は、真面目に経営や労務に取り組んでアピールしても、「ブラック企業」と同じように、会社のホームページが見られてしまい、正しく真実が伝わらない可能性があるかもしれません。


ですから、ネット上の会社情報について「客観性」「信ぴょう性」担保する仕組みが必要ではないかと思います。


実は、最近、そんな仕組みが出来ました。


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平成27年10月からマイナンバー」が個人に通知されたことは、まだ記憶に新しいことだと思いますが、


同時に、国税庁は「法人番号」も435万の法人に通知し、これを公表したことで、法人に関する様々な情報を紐づけることができるようになりました。


それを利用して、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)は、平成27年12月17日から「サイバー法人台帳ROBINS(以下、ROBINS)」を公開し、


「法人番号」「商号」「所在地」に加えて、「法人のロゴ」「電話番号」「ホームページのURL」「商品情報」「法人のPR」だけでなく、


「経営労務管理なども併せて公開することになりました。


そして、これらの企業情報の「信頼性を高める」ために、


社会保険労務士行政書士司法書士、社会的に信頼できる確認者(第三者)が、


エビデンス(証拠、根拠)に基づいて事実を確認することになっています。


怪しい情報があふれるサイバー空間上で、正しい企業情報を提供でき、企業情報の信頼性を高める、今までにない情報提供サービスだと思います。


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社会保険労務士が確認べき企業情報は「経営労務診断」です。


おそらく多くの企業は、健全な経営労務状況のホワイト企業」であることを証明したいと考えていると思います。


それを証明するために社会保険労務士は、対象企業をエビデンスに基づき情報を確認し、電子証明書による署名ができます。


診断すべき主な項目は、以下の通りです。


Ⅰ. 経営労務管理に関わる基本規程

1)法定帳簿(賃金台帳 等)  

2)人事労務関連規定(就業規則、育児・介護休業関連規定 等)

3)人事労務管理データ(労働時間管理、ハラスメント相談 等)  

4)社会保険・労働保険(健保、年金、労災、雇用の加入 等)

5)組織関連規定(組織規程 等)  


Ⅱ. 経営労務管理に関わる基本的数値情報

1)従業員情報(全従業員数、正規従業員の平均年齢、正規従業員の平均年収 等)

2)就業情報(正規従業員の平均労働時間、正規従業員の平均勤続年数 等)

3)労務管理情報(女性役員・管理職数、非正規雇用者数、正規従業員離職者数-直近3年間 等)


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この診断結果「誰でも」「いつでも」「どこでも」「簡単に」見ることができます。


そして相手の会社が「安心安全な取引が可能な企業」なのか、働くのに「快適な職場環境」なのか等の情報が得られます。



始まって間もない仕組みなので、会社情報の登録はまだ少ないですが、これから徐々に増えてくると思います。


また、この「経営労働診断」に適合した会社には、「経営労務診断適合シール」が付与され、


会社の名刺ホームページ上「経営労務管理適合シール」を記載することができ、


経営労務管理適正に取り組んでいることを「見える化することで、社会へのアピールが可能になります。


(※詳しくは「サイバー法人台帳ROBINS」で検索してみてください)


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今後、益々コンプライアンスを遵守した経営」であることが、会社の継続、発展にとって大切なことになってくると思います。


会社「適正な経営労務管理に向けて改善を進め、働く人は正確な情報で「間違いのない会社の選択」を行うことで、


社会全体の労働環境の改善につながっていくといいですね。


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