へんてこ社労士のときどきブログ

さかべ社会保険労務士事務所オフィシャルブログ

転勤命令!え!?

明日は「文化の日」・・・飛び石連休なので、お休みになっているがいるかもしれませんね。


朝から雨が降って少し肌寒いですが、今週も気合を入れていきたいと思います。


ちょっと調べてみたら「文化の日」は日本国憲法が公布された日なんですね。


では5月3日の「憲法記念日」は?・・・日本国憲法が施行された日です。


ところで、先週また「個別労働関係紛争(個人と会社の紛争)」について調べていたのですが、「転勤命令」に目に留まったので、今日はその話題で書きたいと思います。


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仕事をするうえで「業務命令」というのは、使用者が労働者に対して行う指示または命令であり、労働者はそれに従う義務がある、というのが当たり前のことだと思います。


でも、労働者はどうして「業務命令に従う義務」があるのでしょうか?


憲法のもとで平等は保証されているし、個人同士では対等な関係のはずですよね。


使用者が一方的に「業務命令」を発し、労働者が「従う」ことは、何を根拠に可能となるのでしょうか?


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実は、その根拠は、使用者と労働者で結ばれている「労働契約」にあります。

電電公社帯広局事件(最高裁昭和61年3月13日)の判例で、

「労働者は使用者に対して、一定の範囲での労働力の自由な処分を許諾して、労働契約(当該労働条件で働くことの承諾)を締結するものであるから、その一定の範囲での労働力の処分に関する使用者の指示、命令としての業務命令に従う義務があるというべきであり、・・・」

とされています。


つまり、「労働契約」を自らの意思で使用者と結んだのだから、業務の範囲内で、自分の労働力の処分に関して使用者の「業務命令」に従う義務がある、ということです。


ただし、勝手に何でも命令できるわけではなく、同判例のなかで、「業務命令の範囲」について制限しています。


「使用者が業務命令をもって指示、命令することのできる事項であるかどうかは、労働者が当該労働契約によってその処分を許諾した範囲内の事項であるかどうかによって定まるものであって、この点は結局のところ当該具体的な労働契約の解釈の問題に帰するものということができる。」電電公社帯広局事件(最高裁昭和61年3月13日)


つまり、「業務命令」を発する根拠がない(締結した労働契約の範囲でない)ものや業務上の必要がないことや信義誠実の原則から外れるような場合は、


「権利を濫用」したものとして、当該業務命令は無効とされてしまいます。


ところで、以上の話をベースとして、話題を「配置転換」に変えたいと思います。


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「配置転換(配転)」とは、同一企業内で労働者の勤務地や職種をする人事異動です。職種の変更は「配置換え」、勤務地の変更は「転勤」と呼ばれます。


「配転命令」は業務命令ですが、東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日)の判例などで、


1)就業規則労働協約等に「配転命令ができる」旨の規定があること

2)過去に頻繁に配転が行われている実績があること

3)勤務地限定の合意が存在していないこと


の要件を満たせば、使用者は、労働者の個別的同意がなくても「配転命令権」を有するとされています。


ただし「配転命令権」についても「権利濫用法理」による制約があります。


つまり、転勤等は一般に労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えることから、使用者の裁量で決定する権利を無制限で行使することは許されないとすることから、権利濫用の判断基準が示されています。


以下の要素を判断基準として、配転命令が有効か無効かが判断されます。


1)職種・勤務地限定の有無

職種や勤務地限定特約のある労働契約であれば、原則として、当該労働者の同意がないと配置転換できません。労働契約で明示されておらず黙示的な限定特約の場合は、認められにくいようです。

また、同じ会社で他の労働者はどうだったのか(過去の事例)等も判断要素になります。


2)業務上の必要性の有無

労働力の適正配置、業務の能率増進、労働力の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化等、会社の合理的運営に寄与する点が認められる限り、業務上の必要性がの存在が肯定されます。

そして、必要に応じて他の労働者も同様に配置転換を行っていれば、当該配転命令に有効性が認められます。


3)不当な動機/目的の有無
特定の人間排除を目的としている等の不当な動機や目的がある場合は、権利濫用として無効とされます。

例えば、退職勧奨拒否に対する嫌がらせとして、大阪の技術開発部に所属していた労働者に対して、筑波の印刷工場でのインク担当(肉体労働)業務への配転命令を無効としたもの(フジシール事件大阪地決平成12年8月28日)や、

神経症により1年間休職していた労働者が復職を申し出た際に出された、旭川から東京への配置転換を無効としたもの(損害保険リサーチ事件旭川地決平成6年5月10日)

その他、組合活動の妨害や、思想信条による差別による配転命令も無効になっています。


4)人選の適格(合理)性の有無

転勤先への異動が余人をもっては容易に代え難いといったような高度の合理性までは不用ですが、適格者かどうかの判断をします。


5)著しい職業上または生活上の不利益の有無および使用者の配慮義務
配転の業務上の必要性に比べ、その命令がもたらす労働者の職業上・生活上の不利益が不釣合に大きい場合は権利濫用として無効となります。

また、使用者の講じる措置、並びに労働者の事情における配慮義務がなされているか等も判断されます。


転勤命令の有効性を認められた、帝国臓器製薬事件(最高裁平成11年9月17日)の判例では、

原告が東京営業所から名古屋営業所に転勤を命じられ、

共働きの妻、および9歳以下の3人の子供と別居せざるを得なくなったため、転勤命令の効力を争うとともに「家族生活を営む権利」を侵害したという理由する損害賠償請求を争いましたが、

裁判では、就業規則に転勤命令に関する一般的な規定があり、かつ、労働契約書にも記載があり、他の社員全員が10年以内に転勤を命じられていた実績があり、別居手当や社宅の提供等の配慮義務もなされていたことから、

転勤命令は有効になっています。


反対に、転勤命令が無効となった、北海道コカ・コーラボトリング事件(札幌地平成9年7月23日)では、

長女が躁うつ病の疑いで病院での経過観察が必要であり、次女は脳炎の後遺症のため精神の発達が遅滞しており、また、両親は身体障害・体調不良のため家業の農業に従事できないため、転居も単身赴任もできないとして、転勤命令の無効を争ったものです。

転勤命令は、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとし無効となっています。


また、ネスレジャパンホールディング事件(大阪高平成18年4月14日)では、

姫路工場の一部所を廃止することを理由に、同部署全員を霞ヶ浦工場への転勤命令を出したことに対し、

2名の労働者が転勤の無効を主張した事案で、

労働者の一人は、妻が長男の死亡後、精神的疾患であり、高齢の実母との関係が悪く、長女、次女の養育もできず、単身赴任も転勤もできないこと

もう一人の労働者は、実母がパーキンソン病で要介護2であり、妻と2人で介護しており、中学生の長男は次年度高校受験であり、小学生の次男の世話も必要であり、単身赴任した場合、妻の精神的、肉体的負担がそうていされること

などの理由で転勤の無効を主張しました。

会社からは、交通費、宿泊費、引越費用、転勤休暇および赴任支度料等を支給するとしていたものの、

判決では、原告らの受ける不利益は金銭的なもののみではなく、むしろ肉体的精神的な不利益が多大であるというべきであり、当配転命令は、被告の配転命令権の濫用に当たるとされ無効となっています。


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配転命令は業務命令であり、通常は、労働者は従う義務があります。


業務遂行上、配転の意義や重要性も認められています。


しかし、配慮を必要とする労働者に対しても適切に対応する必要があると思います。


近年「育児介護休業法」には「労働者の配置に関する配慮義務」が定められ、「労働契約法」では「仕事と生活の調和への配慮義務」を課しています。


今後、使用者は、今まで以上に配転命令について気を配る必要があるかもしれません。


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