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さかべ社会保険労務士事務所オフィシャルブログ

働く時間が短い正社員とは?

3月17日は「彼岸の入り」・・・


春は牡丹餅(ぼたもち)を食べます。


小豆の赤色は災いが降りかからないようにするおまじないの効果があるそうです。


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では、話題を変えて、


「短時間正社員制度」という仕組みがあるのをご存知でしょうか。


所定労働時間が短くても正社員として適正な評価と公正な待遇が図られた働き方です。


2010年6月に「仕事と生活の調和推進トップ会議」で決定された行動指針で、


2020年までに企業の29%で導入されることが政府の目標になっています。



正社員は、必ずしもフルタイム勤務(週40時間程度、1日8時間、週5日勤務等)である必要はありません。


「短時間正社員」とは、


1週間の所定労働時間が、フルタイム正社員と比べて短い正規型の社員であって


1)期間の定めのない労働契約を締結していること


2)時間当たりの基本給および賞与・退職金等の算定方法等が同種のフルタイム正社員と同等であること


のいずれにも該当する社員のことを言います。もちろん社会保険も適用対象になります。


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「短時間正社員制度」を導入するメリットは沢山あります。例えば・・・


1)子育て期の社員の離職を防止
 
育児をしている女性の4割以上が、正社員のままで短時間勤務を希望しているけれども、実際には約6割の女性が離職し、仕事を始めても「パート・アルバイト」で働くか「働いていない」状態の人が多くを占めています。(内閣府「女性のライフプランニング支援に関する調査」平成19年)


短時間正社員制度を導入することで、このような育児に伴う離職を減らせるかもしれません。


2)介護を行う社員の離職を防止

ある民間企業11社に勤める40歳以上の社員を調査した結果、将来、介護に直面した際「仕事が継続できる」と答えたのは30%弱でした。(東京大学社会科学研究所「仕事継続を可能とする介護と仕事の両立支援のあり方」従業員の介護ニーズに関する調査報告書(平成25年))


勤務時間が短い正社員の選択肢ができることで、介護離職に対する不安も改善できるかもしれません。


3)自己啓発やボランティア活動等、社員の働き方やキャリアの幅を広げ、社員のモチベーション向上

自己啓発を行っている正社員は増加傾向ですが「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」という人が約6割という調査結果があります。(厚生労働省「能力開発基本調査」平成24年度)


短時間正社員になり、自分の時間が増えることで、自己啓発の余裕が出てくるかもしれません。


4)意欲・能力の高いパートタイム労働者のモチベーションの向上


高い意欲と能力があっても、様々な事情で勤務時間を延ばすことができない労働者がいますが、多くはパートタイム労働者という就業形態を選んでいます。(厚生労働省「パートタイム労働者総合実態調査」平成23年)


このような人に対して正社員等への道を閉ざされていると、その意欲や能力を活用する機会を失ってしまう可能性があります。


ですから短時間正社員へ転換できるキャリアルートを作ることで、その意欲と能力を十分活かすことができるかもしれません。


5)高年齢者の働くモチベーションの維持向上


55~69歳で適当な仕事が見つからなかった就職希望者のうち約5割が「短時間勤務で会社などに雇われたい」という希望をしているという調査結果があります。(労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用・就業の実態に関する調査」平成22年)


このような高年齢者を短時間正社員とすることで、専門性や生産性の高い高年齢者の効果的な活用が可能になるかもしれません。


6)心身の健康不全からのスムーズな職場復帰


心身の健康不全で休職した社員を職場復帰させる際、最も問題になることは「どの程度仕事ができるか」ということだそうです。全国の10人以上の民間事業所の調査で約6割がそう回答しています。(労働政策研究・研修機構「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」平成23年)


短時間正社員とすることで、「どの程度仕事ができるか」を適切に見極めながら、勤務時間や勤務日、仕事内容等を決めていくことができます。
 

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メリットばかり挙げましたが、実は難しい課題も沢山あります。


1)時間が短縮しても仕事量や内容が変わらず制度が形骸化してしまうことがある


短時間労働勤務に合わせた仕事の配分の見直しが適正にされないと、以前と労働量が変わらず、労働時間が以前と変わらないままになってしまうことがあるので、


人事部門や管理職の職場等が、仕事の内容について本人や周辺にしっかり伝え、定期的にチェックし、修正していくことが非常に重要になります。


2)補助的・定型的な仕事を割り当てられ、責任ややりがいのある仕事を任せてもらえないことがある


このようなことになると、結果として労働者のモチベーションが低下やキャリア形成の遅れにつながってしまうかもしれません。やはり職場マネジメントが重要になります。


3)評価が低くなり、昇進・昇格も大幅に遅れることがある


人事部門人事評価についての考え方を明示していなかったり管理職の知識や理解が不足だったりすると、


勤務時間が短いというだけで一律に低い評価になる等、公正な評価が行われず、労働者のモチベーションが低下してしまうおそれがあります。


人事部門評価の方法や運用を明確にして、管理職に周知徹底するだけでなく、労働者にも考え方などを開示することが大切です。


4)制度利用に対して、周囲の社員や、顧客・取引先から理解や協力を得られないことがある


短時間正社員に対して、周囲の社員の不満が出たり、十分な理解や協力が得られないことがあり、また顧客や取引先の時間を制限してしまいクレームにつながることも考えられ、制度の運用に支障をきたしてしまう可能性があります。


こうした不満等については、職場の仕事の負担に偏りが生じ、フルタイム正社員が負担する仕事が増え、長時間労働につながることも原因のひとつになると思います。ですから職場全体の働き方の見直しをして、仕事の偏りを減らすことも必要だと思います。


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このように短時間正社員制度は、多くのメリットが期待できますが、同時に多くの難しい労務管理上の問題もあります。


この制度導入には、人事部や管理職の職場マネジメントは非常に重要で、バランスよく、きめ細かく、丁寧にやる必要があります。


しかし、それだけでは難しいかもしれません。


労働者同士がお互いに理解し合い、助け合う風土も必要であり、


社会全体も短時間正社員を受け入れる環境を整える必要があるかもしれません。


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どの労働者も、あるときはフルタイム正社員であり、育児・介護等するときには短時間正社員に転換し、またフルタイム正社員に戻る・・・というような柔軟な仕組みになれば、それぞれの労働者が受益者であり、支援者になります。


そして、個々の労働者が多様な働き方をしながら、自分自身の生活も大切にできるように思います。


そうなれば、それぞれの労働者が助けたり助けられたりしながら「お互いさま」の風土が醸成され、社会環境も整備されてくるかもしれませんね。


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