「特定社労士」をご存知ですか?
熊本県や大分県などではまだ地震が続いて、復興を阻んでいます。
新聞によると「中小企業」は、大手企業のように本社からの支援が見込めず、
「孤立無援」のなか、復興が遅れて苦労されているとのこと。
熊本県などの地方経済を大きく支えている中小企業の復興は、地元の暮らしの復旧にも大きく影響すると思います。
1日も早い復興を心から願います。
では、今日の話題に入ります。
「個々の労働者」と事業主の間の労働に関する紛争を「個別労働関係紛争」といいます。
「個別労働関係紛争」が問題になってきたのは、
パートや派遣労働者のように労働組合に頼れず、個人での紛争解決を迫られる労働者が増え、
その内容もいじめ、嫌がらせ、セクハラ、パワハラ、個別の退職勧奨、育児や介護等の
個々の労働者に係わるトラブルが増えたことが背景あります。
一方、以前は、職場の個別のトラブルは裁判で解決することが多かったのですが、
裁判には多くの時間と費用を要し、原則公開で行われます。
また、裁判での決着では、当事者間で「勝った」「負けた」の関係になり、円満な職場関係の解決を難しくして本当の解決に結びつかないこともあります。
ですから、裁判になる前、あるいは裁判によらない解決手段として「裁判外紛争解決手続(ADR)」が活用されるようになってきました。
ADRは、裁判に比べ「簡易、迅速、低廉」にトラブルを解決するための手続きです。申立ての手続きが簡単で、非公開であることも大きな特徴です。
労働者にとっては、時間的にも、金銭的にも、肉体的にも、精神的にも負担が軽くなるばかりでなく、
経営者にとっても、裁判になった場合の企業イメージの低下や企業リスクを回避することができます。
「特定社会保険労務士」は、依頼者(事業主もしくは労働者)に代わって(代理人または補佐人として)ADRの手続きを行い、
当事者からそれぞれの意見を伺ったうえで、双方が納得できる和解案を示すことでトラブルを解決する
「紛争解決手続代理業務」ができます。
「特定社会保険労務士」の対象となる業務は、
>「個別労働関係紛争解決促進法」に基づき都道府県が行うあっせんの手続の代理
>「男女雇用機会均等法」「育児・介護休業法」および「パートタイム労働法」に基づき都道府県労働局が行う調停の手続の代理
>個別労働関係紛争について都道府県労働委員会が行うあっせんの手続の代理
>個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続の代理(ただし紛争価額が120万円を超える事件は弁護士の共同受任が必要)
>事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭と陳実
そして、主な仕事としては、
>「個別労働関係紛争」に関する依頼者からの相談と助言
>紛争の原因等の把握、事実確認、依頼者の立場に立った主張や法的な見通し
>あっせん申請等の作成と提出
>紛争解決機関への内容説明
>相手方との和解交渉
>あっせん等期日における意見陳実、和解の締結等
などを行うことができます。
「特定社会保険労務士」は、社会保険労務士が厚生労働大臣が定めるADRに関する研修を終了し、
「紛争解決手続代理業務試験」という国家試験に合格し、社会保険労務士会連合会が備える社会保険労務士名簿に付記した者が、その業務を行うことができます。
「特定社会保険労務士」は平成19年4月1日の「社会保険労務士法」改正時にできた資格であり、労働問題の解決や未然防止等により、社会への貢献することを求められている新たな業務領域だと思います。
私も「特定社会保険労務士」として付記されています。
「特定社会保険労務士倫理規定準則(平成19年4月1日施行)」の第一条では、
「特定社会保険労務士は、紛争解決手続代理業務に係る職務の重要性と専門家としての責任を自覚し、依頼者のために誠実にその職務を行わなければならない」
と職務の自覚について規程しています。
「品位」「公正」「誠実」は、社会保険労務士として変わりませんが、
この規定では「依頼者のために」とあり、また、第5条にも「依頼者の意思の尊重」について規程しています。
当然のことかもしれませんが、依頼者(事業主や労働者等)により、業務の立ち位置を常に考慮することが強調されているように思われます。
また、あっせん等の場で依頼者のための主張を行うときには「法的三段論法」に基づいて行うことが求められますし、権利義務の存否が判断されます。
「法的三段論法」とは、
1)大前提・・・法規、判例等
2)小前提・・・具体的事実
3)結論・・・・法適用の結果
つまり「法的三段論法」とは、法規等と具体的事実から法の適用に関する結果を導き出す推論方法です。
例えば、
1)大前提:人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する(刑法199条)
2)小前提:AはBを殺した(事実)
3)結論: Aは、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処せられる
というような論理的な手法です。
当たり前のようですが、このような思考を積み上げていくことは大変なことだと思います。
いずれにしても、社会保険労務士として、職場でのトラブルが起こらないように事業主等を支援していくことが最も大切だと思います。
そして、万が一、トラブルになったときは、特定社会保険労務士として、裁判にまでならないようにトラブル解決のための「あっせん」や「調停」をお手伝いしたいと思います。
そのためにも、これからも地道に勉強していきたいと思います。