へんてこ社労士のときどきブログ

さかべ社会保険労務士事務所オフィシャルブログ

変わる変わる労働法

日々せわしく動き回っているうちに、


いつの間にか平成28年も最後の月になってしまいました。


今年もいろいろな出来事がありました。


リオオリンピック、イギリスのEU離脱、アメリカ大統領選、韓国の大統領の疑惑、都知事選と築地移転とオリンピック問題・・・他にも大きな事件が沢山あったと思います。


これらいくつかの大きな出来事から、何となく世界中で「今までの流れと異なるうねり」が始まっているように感じてしまいます。


来年はどんな年になるのでしょうか。良い年になるといいですね。


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今回は、改正された主な労働関連法についてまとめようと思います。


長くなってしまいますが、読み飛ばしながら、全体のイメージを捉えていただければと思います。





最近、「労働」に関する法律これまでにないスピードで次々に改正され、また立法化されています。


その背景にあるのは、


近年、社会的ネットワーク(SNS)などによって、「働き方に対する様々な問題」が浮き彫りになり、


長時間労働によるうつ病の増加や、過労死などの事件の発生、職場でのセクハラやパワハラのような嫌がらせ問題の増加、非正規労働者の増加と格差の拡大など、多くの深刻な社会問題を改善するためであることは言うまでもないと思います。


一方、さらに別の視点で見ると、


アベノミクスの成長戦略として「労働政策」をその柱と位置づけていることも大きく影響していると思います。


例えば成長戦略に必要なこととして、


「デフレ脱却」のために労働者の賃金のベースアップが重要であり、いわゆる「官製春闘」により、本年度も地域別最低賃金を大幅に引き上げました。


また長期的な「成長産業の育成」のためには、失業を抑えながら労働力を成長分野に移動させていくことが必要であり、


さらに「減少していく労働力への対応」のためには、女性、高齢者、障害者、外国人そして未就労の若者等、全て人の活用が必要であり、


「労働力の質を価値の高いものに変えていく」ためには、非正規労働者(有期労働者、派遣労働者等)と正社員等との間の不当な格差の是正や待遇を改善することが必要であり、


そして労働生産性を上げる」ためには、長時間労働に依存する働き方を変え、能力ある人材の雇用を維持できるようにし、仕事と生活の均衡のとれた健康的な職場環境に変えることを支援することが必要になります。


政府や与党としては、アベノミクスを推し進める重要施策のひとつ として、近年、労働関連法を次々に改正しているのではないかと思います。


では実際、近年、どのくらい多くの労働関連法が変わっているのでしょうか。


この4年間で変わった主な16の法律を大くくり(分類は個人的判断です)にして、


以下に改正のポイントをまとめてみます。


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【Ⅰ.成長産業の育成のための労働力移動】

失業を抑えながら新たな分野への職業転換(同一企業内も含む)を可能とするために、労働者に対するキャリアコンサルティングや職業能力の拡大の支援のための法律を改正しています。



1)職業能力開発促進法の改正(平成27年10月および平成28年4月施行)

労働者が自らキャリア開発(長期的、計画的な職能開発)できるよう支援する仕組みを強化しています。

≪ポイント≫

> ジョブ・カード(職務経歴等記録書)を法律上に位置づけ普及促進(平成27年10月施行)

> 労働者自身にもキャリア開発の責任(平成28年4月施行)

> 事業主に労働者のキャリア開発の支援することを(努力)義務(平成28年4月施行)

> 事業主が行うキャリア開発支援の中核にキャリアコンサルティングを置き、必要に応じて講じる措置を規定(平成28年4月施行)

> 「キャリアコンサルタント」を国家資格化(平成28年4月施行)

> 退陣サービス分野で働く人に対する技能検定を構築(平成28年4月施行)


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【Ⅱ.労働力減少への対応】

人口減少社会に対応するために、女性、高齢者、若者、障害者、そして外国人等一億総活躍社会」を目指し、立法や法律改正を行っています。



1)次世代育成支援法の改正(平成26年4月および平成27年4月施行)
子育てを職場ぐるみで行うことを規程した法律を延長し、強化をしています。(従業員100人以下の企業においては努力義務)

≪ポイント≫

> 職場ぐるみで子育てをサポートするため、仕事と子育ての両立について企業が行動計画を立て届け出ることを定めた同法を10年間延長(平成26年4月施行)

> 優良な企業に対する新たな認定制度の創設(平成27年4月施行)



2)女性活躍推進法(平成28年4月施行)
主に大企業に対し女性活躍のための行動計画の策定、目標の実施状況と課題の分析の報告義務を課しています。(従業員300人以下の企業は努力義務)

≪ポイント≫

> 301人以上の労働者を雇用する事業主は、女性の活躍状況(採用者に占める女性比率、勤続年数の男女差、労働時間、管理職に占める女性比率)を把握し、課題分析の義務

> 上記を踏まえた①行動計画の策定、②労働者への周知、③外部への公表、④届出の義務

> 自社の女性の活躍に関する情報の公表と優良な企業の認定


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3)高年齢雇用安定法の改正(平成25年4月施行)

60歳以降の就労促進のために、企業が雇用確保措置を充実させるための法律として強化しています。

≪ポイント≫

> 継続雇用制度の対象者を制限できる仕組みを廃止(希望者全員が対象になる可能性)

> 継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業まで拡大する仕組みを設定

> 義務違反に対する勧告に従わない企業名を公表
> 事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施および運用に関する指針の策定


4)雇用保険法の改正(平成29年1月施行)

65歳以上の高齢者も現役で働き続けられるよう雇用保険法を改正しています。

≪ポイント≫

> 現行では雇用保険の適用除外となっている65歳以上の雇用者も雇用保険の対象(平成32年度より、64歳以上の雇用保険料の徴収開始)

> 65歳以上の「高年齢被保険者」は、要件を満たせば、高年齢求職者給付金、育児休業給付金、介護休業給付金、教育訓練給付金の支給対象

> その他、雇用保険料率の引下げ、および介護休業給付の引き上げ


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5)若者雇用促進法(平成27年10月、平成28年3月および平成28年4月施行)

未就労の若者に対する適切な職業選択の支援職業能力を向上させる措置等、就業しやすい環境を整えるための法律です。

≪ポイント≫

> 事業主、職業紹介事業者、国および地方自治の青少年の雇用における責務の明確化と相互連携(平成27年10月施行)

> 若者の適切な職業選択のため、

  ・事業主による職場情報の提供の義務化(平成28年3月施行)

  ・ハローワークは、一定の労働関係法令違反があった事業所の新卒求人を一定期間不受理(平成28年3月施行)

  ・若者の雇用管理の状況が優良な従業員300人以下の企業に大臣による認定制度の創設(平成27年10月施行)

> 若者の職業能力の開発・向上および自立の促進のため、

  ・国は地方公共団体と連携し、職業訓練の推進ジョブ・カード(大臣が定める職務経歴等記録書)の普及促進(平成27年10月施行)

  ・ニートなどの青少年に対し、相談機会の提供自立支援のための施設(地域若者サポートステーション)の整備(平成28年4月施行)

> ハローワークが学校と連携し、「中退者」の職業指導および職業紹介 (職業安定法の改正 平成27年10月施行)


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6)障害者雇用促進法の改正(平成28年4月および平成30年4月施行)

雇用における障害者に対する差別の禁止、働く場合の支障を改善する措置を定めています。また、精神障害者の雇用についても算定されることになります。

≪ポイント≫

> 障害を理由とする差別的取扱いを禁止および働く際の合理的配慮の提供義務(平成28年4月施行)

> 法定雇用率(障害者の雇用義務)の算定に精神障害者加える(平成30年4月施行)

> 事業主は、相談窓口の設置など、障害者からの相談に適切に対応する体制の整備する義務、および苦情を自主的に解決に解決する努力義務(平成28年4月施行)


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7)出入国管理法の改正(平成27年4月および平成27年1月施行)

外国人の人材を受け入れ易くなるよう改正しています。

≪ポイント≫

> 高度な専門的能力のある外国人の人材の受け入れ促進のために「高度専門職」という新たな在留資格を設け、活動制限を大幅に緩和し、在留期間を無期限とすることも可能に(平成27年4月施行)

> 「国内資本企業」において事業の「経営・管理活動」ができる在留資格を設け、これまであった「外国資本との結びつき」の要件を削除(平成27年4月施行)

> これまでの専門的区分「技術」(理系)と「人文知識・国際業務」(文系)を一本化し、包括的な「技術・人文知識・国際業務」としたことで、企業等のニーズに柔軟に対応可(平成27年4月施行)

> 低年齢からの国際交流に資するため、外国人の中学生、小学生にも在留資格「留学」を付与(平成27年1月施行)


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【Ⅲ.労働力の質の向上、不当な格差の是正】
雇用形態が異なることで不当な賃金格差や労働条件の格差が生じ、社会的格差の固定化が進み労働力の質の低下を招く可能性があるため、これを是正するための立法や改正が行われています。



1)労働契約法の改正(平成24年8月、平成25年4月、平成26年4月および平成27年4月施行)

有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めの不安を解消し、安心して働き続けられるように改正されています。

≪ポイント≫

> 有期労働契約を5年間繰返し更新すると、労働者の申し込みにより無期労働契約に転換可能(平成25年4月施行)

> 有期労働契約の「雇止め」の要件の明確化(平成24年8月施行)

> 有期契約労働者と無期契約労働者の不合理な労働条件の相違の禁止(平成25年4月施行)

> 大学や研究開発法人で有期労働契約で働く研究者の無期転換申込権発生までの期間を10年とする特例(平成26年4月施行)

> 高度専門知識等を有する有期雇用労働者および定年後に継続雇用される者の無期転換申込権発生までの期間延長の特例 (特別措置法 平成27年4月施行)



2)パートタイム労働法の改正(平成27年4月施行)

短時間労働者の公正な待遇を確保し、労働条件を理解し納得して働くことができるよう法律を改正しています。

≪ポイント≫

> パートタイム労働者(有期労働契約の短時間労働者も対象)の公正な待遇と不合理な取扱いの禁止

> パートタイム労働者の納得性を高めるための措置の義務

 ・雇い入れ時の雇用管理について説明義務

 ・説明を求めたことによる不利益取扱いの禁止

 ・相談に対応する体制整備の義務

 ・相談窓口の周知義務

> 厚生労働大臣の勧告に従わない場合の事業主名の公表や虚偽の報告等に対して過料の新設

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3)待遇確保法〈別名:同一労働同一賃金法〉(平成27年9月施行)

雇用形態が多様化する中で、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性の格差が存在し、これが社会での格差の固定化に繋がることが懸念されています。それらの状況を是正するため、労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進を、国に義務付けています。

≪ポイント≫

> 国は労働者の職務に応じた待遇の確保等の施策の策定および実施の義務

> 国は労働者の雇用形態による職務の相違、および賃金、教育訓練、福利厚生その他の待遇の相違の実態の調査研究の義務

> 国は雇用形態の異なる労働者について、その待遇が不合理にならないよう必要な施策を講ずる義務

> 政府は3年以内に、派遣労働者と派遣先に雇用される労働者との、業務の内容および責任の程度などに応じた均等な待遇および均衡のとれた待遇を図るための法制上の措置等を講ずる義務



4)労働者派遣法の改正(平成27年9月および平成27年10月施行)

派遣労働は、「臨時的・一時的なもの」であることを原則とするという考え方のもと、正社員の常用代替を防止し、より一層の雇用の安定、キャリアアップを図ることを目的として改正しています。

≪ポイント≫

> 労働者派遣事業については届出制は廃止し、すべて許可が必要(平成27年9月施行)

> 派遣労働者の雇用の安定のために派遣元から①派遣先への直接雇用の依頼、②新たな派遣先の提供、③派遣元での無期雇用の措置およびキャリアアップ措置の実施、均衡待遇の推進、派遣先の雇入れ努力義務(平成27年9月施行)

> 同一の派遣先の事業所に対し派遣期間を原則3年とし、同一の派遣労働者を、同一の組織単位に派遣できる期間も3年が限度(平成27年9月施行)

> 違法派遣を受け入れた場合、その時点で、派遣先が同一の労働条件で労働契約(直接雇用)の申込みとみなす制度に(平成27年10月施行)


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【Ⅳ.労働生産性の向上、労働環境の改善】
労働生産性を上げるために、必要以上の長時間労働を減らし、有能な人材の雇用を維持し、仕事と生活の均衡のとれた、健康的な職場環境にするための法律改正が行われています。



1)労働安全衛生法の改正(平成27年6月、平成27年12月および平成28年6月施行)
最近の化学物質による胆管がんの発生や、長時間労働等を原因とする精神障害などの労災認定数の増加等に対応し、労働者の安全と健康の確保の対策に向けて改正されています。

≪ポイント≫

> 化学物質のリスクアセスメント(事業場の危険性、有害性の特定、見積り、提言措置等)の実施義務(平成28年6月施行)

> 労働者50人以上の事業所にストレスチェックの実施等の義務化(平成27年12月施行)

> 受動喫煙防止措置の努力義務化(平成27年6月施行)

> 重大な労災を繰り返す企業に対し、大臣が指示、勧告、公表(平成27年6月施行)



2)過労死防止等対策推進法(平成26年11月施行)
近年の過労死等の多発に対応し、国および政府は過労死等の対策を推進し、仕事と生活を調和させ、健康で働き続けることのできる社会の実現する義務を課しています。

≪ポイント≫

> 政府は「過労死等の防止対策の大綱」を定める義務

> 国は過労死防止のため、①調査研究等、②啓発、③相談体制の整備等 ④民間団体の活動に対する支援を行う義務

> 政府は、必要があるときは、過労死等の防止に必要な法制上または財政上やその他の措置を行う義務


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3)育児介護休業法の改正(平成29年1月施行)

介護や育児をしながら働く有期契約および無期契約労働者が、介護休業・育児休業を取得しやすくするように改正しています。

≪ポイント≫

> 介護を必要とする対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として(これまで1回)、介護休業を分割して取得可能

> 介護休暇(1年に5日、対象家族が2人以上の場合は10日)を半日単位(これまで1日単位)での取得可能

> 介護休業とは別に(これまで介護休業93日の範囲内)、介護のための所定労働時間の短縮措置を3年間で2回以上の利用が可能

> 対象家族1人につき、介護終了まで、介護のための残業の免除が可能

> 有期契約労働者の育児休業の取得要件の緩和

> 子の看護休暇(1年に5日、子が2人以上の場合は10日)を半日単位(これまで1日単位)での取得可能



4)男女雇用機会均等法の改正(平成29年1月1日施行)
育児休業、介護休業等を理由とする嫌がらせ等を防止措置を新設し、さらに派遣社員にも適用を拡大しています。

≪ポイント≫

> 事業主のみでなく、「上司・同僚からの」妊娠・出産、介護休業等を理由とする嫌がらせ等を防止する措置等講じることを事業主に新たに義務付け

> 派遣労働者派遣先にも、育児休業等の理由とする不利益取扱いの禁止や、妊娠・出産、育児休業、介護休業等を理由とする嫌がらせ等の防止措置の義務付け


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このように近年、数多くの労働関連法が改正されてきましたが、


今後もおそらく労働関連法の改正が続くことが予想されます。


例えば、平成27年から国会で「労働基準法」についての改正案が審議されています。


具体的には、


> 「高度プロフェッショナル制度」で一定の年収要件(少なくとも1,000万円以上)を満たす労働者が、高度な専門的知識が必要な業務に従事する場合に、本人の同意や委員会の決議などを要件として、労働時間外、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とすること。


> 既に大企業に適用している月60時間を超える時間外労働に関する割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止すること。

> 年次有給休暇の取得促進のために、使用者は、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、そのうちの5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととすること。


> フレックスタイム制の「清算期間」の上限を1か月から3か月に延長する。併せて、1か月当たりの労働時間が過重にならないよう、1週平均50時間を超える労働時間については、当該月における割増賃金の支払い対象とすること。


などについて検討を進めているそうです。


また、平成28年11月28日に公布され、1年以内に施行されることになっている「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」では


多くの事業場で働く外国人技能実習生の「技能実習の適正な実施」および「技能実習生の保護」を図ることを目的としています。


それ以外にも、三六協定の上限時間や「同一労働同一賃金」に関するいくつかの法案についても検討しているようです。


労働に関する問題は、現在、社会の関心のある最も大きな話題のひとつだと思います。


どれも簡単に解決できるものではありませんが、法律改正で本当に良い方向に変わるかどうか、これからもしっかりと追っていくことは大事だと思います。


皆様も、身近に関わることだと思いますので、これからも是非、労働関連法について関心を持ち続けてください。



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