徐々に厳しく、違法な長時間労働
2月末からプレミアムフライデーのキャンペーンが始まりました。
政府と経団連が「働き方改革」と「消費拡大」などを期待して始めたようですが、定着するのでしょうか?
でも、3月31日の金曜日は花見で午後3時から飲みに行く人が増えるかも・・・
だけど、年度・月締めや異動などで忙しい人が多いのかなあ・・・
今回は、違法な長時間労働に対する国の対応について書いてみます。
今「働き方改革実現会議」で、3月中に出される予定の実行計画に向けて残業の上限などについて、労使で議論されています。
月60時間を上限とし、繁忙期は一時的に月100時間・・・などが政府案で出ているようです。
年内には、上限時間を設定し、罰則規定を定めた労働基準法の改正が行われるかもしれません。
実際に、最近でも有名な企業で100時間を超える長時間労働による過労死など、マスコミを賑わすことがあり、相変わらず違法な長時間労働の問題は続いています。
ですから今後の法改正等を待つまでもなく、既に「違法な長時間労働」に対する国の管理が徐々に厳しくなっているようです。
平成29年1月17日に厚労省労働基準局から「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果」が公表されました。
内容は平成28年4月から9月までの6カ月間に、長時間労働が疑われる10,059事業場に対して労働基準監督署による監督指導を実施した結果の報告です。
昨年度、平成27年は4月から12月の9カ月間で8,530事業場だったので、平成28年は監督指導の件数が大幅に増えています。
監督指導の対象になった「長時間労働が疑われる事業場」というのは、
「80時間を超える残業が行われた疑いのある事業場」や「過労死などに関する労災請求があった事業場」としています。
簡単に言えば、グレーやブラックの疑いのある企業に対して監督指導を行った結果が公表されたということです。
監督指導を行った事業場のうち、6,659もの事業場(66.2%)で労働基準法などの「法令違反」が確認されました。
主な法令違反の内容としては
「違法な時間外労働(4,416事業場)」、
「残業の賃金不払い(637事業場)」、
そして「過重労働による健康障害防止措置を実施していない(1,043事業場)」などとなっています。
上記の法令違反は「時間外労働80時間」を超える事業場が大半を占めています。
この監督指導の対象で時間外労働が「80時間」を超えたのは3,450事業場(78.1%)もありました。
ところで、
1カ月の時間外労働「80時間」や「100時間」が目安の時間になっているのはなぜかというと、
医学的な統計で、
1)脳・心臓疾患の発症前1カ月間に「おおむね100時間」を超える時間外労働
2)脳・心臓疾患の発症前2カ月間ないし6カ月間にわたって、1カ月当たり「おおむね80時間」を超える時間外労働
が認められる場合には「疾患の発症との関連が強い」ということがデータで明らかになっているからです。
話を戻して・・・
この監督指導を行った業種で比較すると、
「接客娯楽業(飲食店、旅館業等)」の75.0%で法令違反があり、次いで「運輸交通業(72.7%)」となっています。
人の出入りが多く、人手不足感のある業種で法令違反を起こしやすい傾向があるのでしょうか。
もしかしたら、人が定着しないから法令違反状態になりやすく、法令違反状態だから人が定着しないという悪循環に陥ってしまっている事業所もあるかもしれません。
しかし一方で、この監督指導の結果から、
時間外労働が月200時間を超えた労働者のいる事業所が116あり、
150時間超200時間以下の事業所が373もあり、
100時間超150時間以下の事業所は1,930もありました。
人手不足などの経営上の問題があったとしても、これらは悪質な事業所ではないでしょうか。
平成29年1月20日に労働基準局長から「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」という通達がありました。
この通達の概要は、
1)「複数の事業場のある社会的に影響力の大きい企業」で
重大、悪質な労働時間関係違反等が認められた企業に対して「経営幹部」を呼び出して、
本社を管轄する「労働基準監督署長」が是正・改善を図るよう指導して全社的な改善の実行を確認する。
2)上記指導において、
「再度」違法な長時間労働や過労死を複数発生させた企業の「経営トップ」に対して、
本社を管轄する「都道府県労働局長」から、早期に全社的な是正を図るよう指導を行うとともに
「事実を企業名とともに公表」する。
「企業名の公表は制裁ではなく、再発防止を図る公益性を確保するため」ということになっていますが、
「企業名の公表」は社会的な信用を落とし、経営に重大な影響を及ぼします。
おそらく違法な長時間労働の抑制に繋がるのではないかと思います。
今回の通達は、一昨年前、平成27年5月18日の「違法な長時間労働を繰り返している企業に対する指導・公表について」という通達が基礎になっており、それより指導の対象となる企業が拡大されています。
具体的には、
平成27年の通達では、時間外労働時間が「100時間」を超え、法令違反があった企業が指導の対象であったのに対し、
平成29年の通達では「80時間」を超えた企業が対象になります。
また、平成27年の通達では「概ね1年程度の期間に3カ所以上の事業場で違法な長時間労働が認められる企業」となっていましたが、
平成29年の通達では「概ね1年程度の期間に2カ所以上の事業場(本社で2回認められる場合含む)で違法な長時間労働が認められる企業」となっています。
つまり、これまで以上に「企業名の公表」のハードルが下がり、公表される企業が増えることが想定されます。
対象は「複数の事業場を持つ社会的に影響力の大きい企業」ということなので、当面は「大企業が中心」になりますが、
徐々に「違法な長時間労働」に対する国の姿勢が厳しくなっているようです。
働く人の健康や大切な命を守るうえでも、すべての企業は(中小企業も含めて)「違法な長時間労働」を無くすよう努めていく必要があると思います。