短時間労働者の社会保険の基準
梅雨に入って天気は安定しませんが、関東では水不足、西日本では大雨のところもあるようですね。
お気を付けください。
自分のヒマワリは順調に育っています。アジサイも綺麗ですね。
先日(平成28年6月17日)東京地裁で、ある判決が出たことがマスコミで報道されました。
大手の語学学校で英語講師として働くカナダ人男性が、労働時間が減少し厚生年金保険の被保険者資格を失ったため、加入資格を認めるよう日本年金機構に求めた訴訟で、
東京地裁は、資格を認めなかった処分を取り消す判決が出された、ということでした。
実際に、社会保険料の負担を抑制するために、講師の労働時間を正社員の4分の3未満に抑える外国語学校が多いそうです。
もちろん日本の年金制度は国籍は関係なく「日本国内に住所」が有れば、日本人と同様に年金についての権利、義務が発生します。
今回の判決によると、
外国人講師は40分のレッスンを週35コマ担当していましたが、労働時間の減少を理由に厚生年金保険加入資格を喪失し、
資格確認請求を日本年金機構にしましたが却下され、これに対する審査請求、再審査請求も却下されたので提訴したそうです。
判決では、講師の労働日数は常勤講師と変わらず、各レッスン前の5分間を準備に費やす労働時間として加えると、常勤講師の「4分の3」に近づくと指摘し、
また、報酬の額も十分あり、事業主との雇用関係も安定しているとして、被保険者から除外するのは相当ではないと判断されました。
それからこの裁判における、もうひとつの大きな論点として、
「短時間労働者の加入基準」である「4分の3」が違法か適法かということがありました。
というのは、この「4分の3」という加入基準は、昭和55年6月6日付の厚生労働省の「内かん(内簡または内翰)」(以下「昭和55年内かん」)が根拠になっているからです。
この「昭和55年内かん」には、
「・・・・同一の事業所において同種の業務に従事する通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数の「おおむね4分の3以上」である就労者を、原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱うべきものであること、・・・」
と記述されてあり、実際、長い間運用されてきました。
しかし「内かん」というのは法令ではないので、法的な拘束力は一切なく、あくまで技術的な助言・中央省庁の考え方を示すものに過ぎないと言われています。
通達等とも異なり、私文書に近いのですが、それでも、これによる行政行為が国民の権利の制限や義務の負荷に影響を及ぼす可能性は否定できないとも言われています。
しかし、今回の判決では「昭和55年内かん」が違法であることは認めず「適法」であるとされました。
しかしながら、今年の秋(平成28年10月1日)以降は、「4分の3基準」が法律になります。
そして、同日以降、「昭和55年内かん」は廃止されることになります。
健康保険法と厚生年金法の改正により、
「1週間の所定労働時間及び1月間の所定労働日数が、同一の事業所に使用される通常の労働者の1週間の所定労働時間及び1月間の所定労働日数の4分の3以上(以下「4分の3基準」)である者を、健康保険・厚生年金保険の被保険者として取扱うこととする」
と明確にされます。
また、もし「4分の3基準」を満たさない者であっても、以下の5要件すべて満たす者であれば、被保険者になれます。
1)1週間の所定労働時間が20時間以上であること
2)同一の事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること
3)報酬の月額が8万8千円以上であること
4)学生でないこと
5)特定適用事業所(使用する被保険者の総数が常時500人を超える事業所)に使用されていること
また、これまで一定要件備えていないと「70歳以上の使用される者」は被保険者になれませんでしたが、改正法施行以降は、70歳未満の基準が準用されることになります。
いずれにしても、
年金の財源確保のための「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大」が背景にあります。
多くの人が年金制度に入れることは良いことだと思いますが、
事業所や労働者の保険料は、重い負担になると思います。
低い給与から、保険料を差し引かれることを望まない労働者もいると思います。
やはり、会社が収益を向上させることができる経済環境の改善や、
非正規労働者を正社員にして安定した収入を得られる仕組みを作っていくような施策が並行して実行されなければ、
国民にのみ負担を科すことになりかねないと思います。
しかし、老後を考えて年金制度に入りたくても入れなかった人にとっては一歩前進だと思います。
とにかく今回の外国人講師は、判決によって被保険者資格が復活して本当に良かったですね。