「パワハラ」と「厳しい指導」の違いは?
月曜日の朝です。
朝晩は冷えますが、爽やかなシーズンです。
今週も気持ちを新たに、張り切っていきたいと思います。
少し前に「パワハラ」について社会保険労務士会のセミナーがありました。
基礎から対策まで、あらためて勉強させてもらいましたが、自分が興味を持ったことについて、少し書いてみたいと思います。
以前にもこのブログで「パワハラ」について書いています。
sakabesharoushi.hatenadiary.jp
「パワハラ」は、セクハラよりも新しい概念で、まだ法律上の定まった定義はありません。
でも、既に一般的な言葉として定着し、職場での視点も変わりつつあり、問題も顕在化しています。
平成24年度の厚生労働省の「パワーハラスメントに関する実態調査」によると、
1000人以上の大企業のうち9割以上で、従業員向けの相談窓口を設置しています。
そして相談内容で取り扱っているテーマで多いものから、メンタルヘルス32.7%、パワハラが22.0%、セクハラが14.3%の順になっており、「パワハラ関連」の相談が多いことが伺えます。
「パワハラ」の具体的内容は
「精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)」が69.6%、「人間関係からの切り離し(無視)」が21.2%、「過大な要求(業務上明らかに不要なこと、遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)」が16.8%となっています。
一方「パワハラ」は、問題がこじれたり、病気や自殺まで発生してしまうと事件になってしまうこともあります。
例えば「メイコウアドバンス事件」平成26年1月15日名古屋地裁判決例のように、役員2名から日常的な暴行、退職勧奨等のパワーハラスメントが原因で男性が自殺したことに対して、妻子が会社および役員2名に対して損害賠償を求めて訴えた結果、逸失利益および慰謝料で5,400万円の損害賠償を命じた事例や、
「日能研関西ほか事件」平成24年4月6日大阪高裁判決例のように、塾講師が有給休暇を申請した際、上司が評価が下がる等と発言し、有給休暇取得を妨害したことに対して、塾講師が会社、会社代表者および総務部長を相手に損害賠償を求めて訴えた結果、会社、会社代表者、総務部長それぞれに対して慰謝料を20万円づつ支払うように命じた事例など、
まだ数は少ないですが、裁判になってしまう事件も増えつつあります。
しかし、従業員を指導することは、企業にとって重要なことであり、例えば人身を預かる医療関係業務や運転業務、危険が伴う建築、鉱工業の業務、緊急を要する防災、防犯対応業務など、時には「厳しい指導や叱ること」をせざるを得ないこともあります。
企業調査において、パワハラの予防・解決の取組を進めるに当たっての課題として最も比率が高かったのは「パワハラかどうかの判断が難しい」で、回答企業全体の72.7%が課題としてあげています。
実際に、従業員から、必ずしも「パワハラ」に該当すると言えないような相談も寄せられている、と企業調査にもあります。
では「パワハラ」と「厳しい指導」はどのような基準で認定されるのでしょうか?
今回のセミナーで示されていた「パワハラ」の認定のポイントは以下の通りです。
まず、暴力、暴言、脅迫を伴う指導は、犯罪性を帯びるものとして「パワハラ」とされることは異論のないことだと思います。
次に、通常の業務のなかで行われた指導については、
1)職務上の合理性があるか
業務遂行上、必要な注意は「業務の適正な範囲内」ですが、人権侵害に当たるような人格否定、雇用不安を抱かせるような言動、個人的な攻撃や精神的苦痛を与えることを目的とした言動は「パワハラ」にあたると考えられます。
ただし、「業務の適正な範囲内」は、業種や企業文化の影響を受けるため、職場ごとに認識をそろえる必要があります。
2)同じ言動を繰り返してはないか
一般的な「パワハラ」は「繰り返し」が大きな要件となります。たとえ悪意が無い言動であっても、繰り返されることで「パワハラ」と判断される場合があります。
3)健康や安全を脅かす可能性はないか
「パワハラ」に該当するか微妙な場合であっても、従業員の心身に重大な影響を及ぼす引き金となった言動は、「パワハラ」になる可能性があります。「安全配慮義務」の観点から、心身の不調にならないよう配慮する必要があります。
4)パワーの存在がみとめられるか
「パワー」は上司から部下だけとは限りません。業務に関する知識の優位性や、集団を背景とした「パワー」(例えば正社員集団と派遣社員集団、若い世代集団と年配集団など)
ですから、すべての人がパワハラの加害者にも、被害者にもなる可能性があります。
5)自己防衛でいるか、回避の余地はあるか
自己防衛能力の高い人や回避できる力のある人の場合には、それほど深刻にならない場合があります。
しかし、自己防衛能力や回避能力が低い人の場合には、少しの言動でも極めて深刻な苦痛をもたらし、「パワハラ」とされる可能性があります。
「パワハラ」の認定は「業務の適正範囲内」であるかどうかが重要なポイントになります。
さらに「その時、その人に対して、その言動が適切であったかどうか」も考慮されます。
やはり、絶対的基準で認定されるというよりも、相対的基準で認定される難しさはあるようです。