仕事を辞める、辞めさせられるとき
最近「個別労働関係紛争(個人と会社の紛争)」について、数人の社会保険労務士の先生方と時々勉強していますが、「解雇」「雇止め」「セクハラ」「パワハラ」「未払い残業代」などがテーマになることが多いので、このブログの話題でも、関連することを取りあげてしまいました。
労働関係では「会社を辞めたり、辞めさせられたりするとき」に、もめる事が多いのではないでしょうか。「セクハラ」「パワハラ」「未払い残業代」でも退職や解雇が絡んでくることがあります。
ところで、会社を辞める場合は、いろいろなカタチがあります。
例えば、労働者と使用者が合意によって労働契約を解約する「合意解約」
労働者からの申し出で労働契約を解約する「辞職」
労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了する「定年退職」
労働契約に期間の定めがある場合にその期間が満了する「期間の満了」
それから、使用者からの一方的意思表示による労働契約の解約である「解雇」および懲戒事由による「懲戒解雇」等があります。
民法627条1項では、労働契約を通常の「契約」として「当事者が雇用期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れすることがができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する」とあり、
民法では「解雇」においても、使用者は2週間の予告期間をおけば、いつでも労働者を解雇できることになっています。
しかし、「解雇」や「懲戒解雇」の場合は、労働者の生活を脅かし重大な影響を与えるため、会社がいつでも自由に行えるものではなく、一定の規制がされています。
従来、この規制は、労働基準法で定められ、最高裁判所の判決(判例)でも「解雇濫用法理」が確立し、解雇の不利益から労働者を保護していました。
そして平成20年3月1日に「労働契約法」が施行されました。
労働契約法第16条では「解雇は客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」となっています。
つまり、解雇するには社会の常識に照らして納得できる理由が必要なのです。
例えば、解雇の理由として、勤務態度に問題がある、業務命令や職務規律に違反するなど労働者側に落ち度がある場合が考えられますが、
1回の失敗ですぐに解雇が認められるということは極めて少なく、労働者の落ち度の程度や行為の内容、それによって被った損害の重大性、労働者が悪意や故意でやったのか、やむを得ない事情があるかなど、さまざまな事情が考慮されて、
解雇が正当かどうか、最終的には裁判所において判断されます。
解雇は、他の法律でも、一定の条件の場合には禁止されています。
労働基準法では
・業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇
・産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇
・労働基準監督官に申告したことを理由とする解雇
労働組合法では
・労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇
・労働者の性別を理由とする解雇
・女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後休業をしたことなどを理由とする解雇
育児・介護休業法では
・労働者が育児・介護休業を申し出たこと、又は育児・介護休業をしたことを理由とする解雇
などは禁止されていて、解雇は無効になります。
それから、会社は、就業規則にも解雇事由を記載しておかなければなりません。
また、解雇に合理的な理由があったとしても、会社は少なくとも30日前に解雇の予告をする必要があります。
sakabesharoushi.hatenadiary.jp
また、労働者が「解雇の理由についての証明書」を請求した場合には、会社はすぐに労働者に証明書を交付しなければなりません(労働基準法第22条)
「期間の定めのある労働契約(有期労働契約)」の場合は、途中で解雇する場合、正社員のように「期間の定めのない労働契約」の場合よりも、さらに厳しく有効性が判断されます。(労働契約法第17条)
また「有期労働契約」において、3回以上契約が更新されている場合や、1年を超えて継続勤務している労働者には、社員と同様、解雇予告の必要があります。
「有期雇用計画」の反復更新の実態から、実質的に「期間の定めのない契約」と変わらないといえる場合や、雇用の継続を期待することが合理的であると考えられる場合、「雇止め」は、解雇と同様に「客観的合理的理由や社会通念上相当である」と認められない場合、「雇止め」は認められなくなります。(労働契約法第19条)
不況や経営不振などを理由に、人員削減のために行う解雇を「整理解雇」といいますが、これも会社都合の解雇ですから、厳しく解雇の有効性が問われます。
以下の事項に照らして「整理解雇」が有効か否かを厳しく判断されます。
・人員削減の必要性
・解雇回避の努力(配置転換、希望退職者の募集等の努力)
・人選の合理性(客観的、合理的、公正性当)
・解雇手続きの妥当性(労働組合等へ解雇の必要性、時期、規模、方法について納得を得るための説明)
などが、適正かどうかを判断されます。
「退職勧奨」というものがありますが、これは、会社が労働者に対し「辞めてほしい」「辞めてくれないか」などと言って、退職を進めることをいいます。
「退職勧奨」に応じるかどうかは「労働者の自由」であり、その場ですぐ答える必要もないですし、辞める意思がない場合には、応じないことを明確に伝えることが大切です。
「退職勧奨」の場合は応じてしまうと、合理的理由が無くても有効になってしまいます。しかし、執拗に長期に渡って退職勧奨すると、違法な権利侵害になることがあります。
会社が倒産して辞めざるを得ない場合、会社の未払い賃金が発生する場合が多いと思いますが、その場合「賃金の支払の確保等に関する法律」により、政府が会社の未払い賃金の一部を立替払いをする制度が設けられていますので、そういった場合には労働基準監督署に相談してください。
以上は、会社を辞めたり、辞めさせられたりした場合の「基礎知識」なので、頭の片隅に入れておくといいと思います。
ところで、私の仕事のホームページをアップしましたので、ご興味のある方はご覧ください。