「同一労働同一賃金」への課題
前回のブログから、少し間が空いてしまいました。
いつも読んで頂いている皆さまには、大変感謝しております。
私事ですが、実母が亡くなりました。最後まで病床から、私に「風邪ひかないようにね」と言うような人でした。
申し訳ありませんが、今後も少しの間、ブログの記載が変則的になるかもしれません。
今回は、最近また話題になっている「同一労働同一賃金」について書きます。
安倍首相が1月22日の施政方針演説で「同一労働同一賃金」の実現を目指すと表明しました。
そして、「一億総活躍大臣」も、その実現に向けて具体案を議論していく方針を示しました。
さらに2月5日の衆院予算員会でも、首相はその「法制化」の可能性について述べました。
ご存知のとおり「同一労働同一賃金」とは、正規雇用、非正規雇用を問わず、同じ仕事には同じ賃金を払うということです。
当然のように思えますが、残念ながら日本ではそのようにはなっていません。
いくらでも事例はありますが、一例を挙げれば、
工場の同じ生産ラインで、非正規の期間雇用の従業員と正社員が同じ仕事をするようなケースが見られますが、
正社員のほうが賃金がかなり高いことが多いと思います。
欧米などでは、「同一労働同一賃金」の原則は一般的に導入されているそうです。
それは歴史的に、欧米の雇用は「職種」を基本とした労働市場があり、
労働者は企業が求めている特定の職種や役職に応募し、採用されればその職種や役職で働き、そして必要なくなれば退社します。
さらにキャリアアップを求めるなら、自分にふさわしい職種や役職にまた応募し、チャンスを掴む努力をするのが当たり前という前提があります。勤続年数による昇給はないので「同一労働同一賃金」になっていくのです。
しかし、日本の雇用は歴史的に「就社」であり、「企業のメンバーになる」という仕組みです。
メンバーになると雇用継続が保証される代わりに、企業内でどんな仕事でも、どんな場所でも働くことになります。そして勤続年数に応じて昇給していきます。
つまり企業のメンバーである期間が長い(ベテラン正社員)ほど賃金は高く、逆に、メンバーの期間が短い(若い正社員)ほど低くなり、
メンバー(正社員)でないビジター(非正規労働者)はさらに賃金が低くなるということになります。
ですからメンバーとしてのキャリアの違いで、たとえ同じ仕事をしたとしても同じ賃金にはならない、ということになってしまうのです。
いわゆる「年功序列」です。
このように欧米とは異なる歴史的背景をもつ日本の労働環境に、全く異文化の「同一労働同一賃金」という考え方を導入するわけですから、
かなり高いハードルがあると思います。
もちろん、仮に正社員と非正規労働者が、一見、同じ仕事をしていたとしても、
正社員の場合は、
突発的な事態や繁忙期には責任をもって長時間働くことが当然に求められ、
懇親会などの日々の業務に無関係な情報交換にも参加することが暗黙の了解になっていたり、
共同体の団結のための研修への参加が義務付けられていたり、
人事異動は辞令1枚でどこにでも行かねばならず、
会社への忠誠心を強く求められていると思います。
一方、非正労働者は、必ずしもそのような義務や重荷を負うことは多くないかもしれません。
ですから、何をもって「同一労働」にするのかということは大変難しい問題であり、しっかりと決めておく必要があると思います。
他にも解決すべき課題はあります。
同一労働をする正社員と非正規労働者の賃金を近づける場合、企業の経営上、総人件費が上げられないのであれば、非正規労働者の賃金を上げると、正社員の賃金を下げざるを得なくなります。
また非正規労働者の賃金を上げて、総人件費が大きく増える場合、非正規労働者の多い中小企業では、人件費負担が中小企業を中心に経営に打撃を与える懸念もあります。
sakabesharoushi.hatenadiary.jp
以前、上記のブログで書きましたが、既に9月に「同一労働同一賃金推進法」が参議院で採決されています。
その際は、労働者派遣法改正案の対案として、民主党と維新の党などが共同で提出し、
紆余曲折の結果、施策の実施が遅延され、法制化という強い拘束力を持たない法案として成立しました。
しかし今回は、与党による参院選を睨んだ野党対策として、これまで以上に踏み込んでいます。
もし「同一労働同一賃金」が普及すれば、非正規労働者の賃金が上がり、結婚・子育て支援につながる可能性があるだけでなく、消費の拡大効果も期待でき、経済に好影響があるかもしれません。
「一億総活躍」や「アベノミクス推進策」のひとつとして「同一労働同一賃金」を目玉政策としているとも言われていますが、
政府がやると言った以上は、不公平感のない仕組みをつくってほしいと思います。
しかし、そのためには雇用制度について抜本的に変えるくらいの強い意志がないとできないと思います。
繰返しになりますが、ハードルはかなり高いと思います。
経団連も政府に歩調を合わせているようですが、
日本の産業を支える大切な中小企業でも納得して導入できるような仕組みでないと、実現は難しいと思います。
しかし「労働者を公正に処遇する」ことは大変重要なことですから、
社会全体で雇用制度を改めて見直すことができる良いチャンスが来たのではないかと思っています。