老齢年金はどうしてこんなに複雑なの?
昨日、県の社会保険労務士会主催の研修会で、
「マイナンバーの対応について」「被用者年金の一元化」それから「健康経営」等について学んできました。
いずれ近いうちに、このブログでそれぞれの概要をご紹介したいと思います。
ところで、年金は、複雑でなかなか理解することが難しいと思ったことはありませんか?
特に老齢厚生年金は、昭和60年、平成6年および平成12年の大きな改正があり、
その度に新たな仕組みを大きく変えだけでなく、激変を緩和するために、既得権のある世代はそれまでの権利を保持させながら、世代の進行とともに変えていくような計画になっています。
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その結果、被保険者等の生年月日、性別、被保険者期間等で大きく異なるだけでなく、
暫定措置や特例があったり、仕事による収入や失業給付などがあると給付額が変わったりして、
老齢年金の仕組みをたいへん複雑で分かり難くしています。
急速に少子高齢化が進んでいる現在、以前のままの仕組みにしておくことはできませんし、
法律改正のときに、大胆にシンプルな仕組みにしてしまうと、人によっては大きな不利益になってしまったり、不公平感や不満を持ったりすることもあります。
ですから、被保険者になった時代の年金制度をできるだけ反映させつつ、被保険者期間、性別等による違い、また社会的な福祉を考慮した保険料免除や学生特例、支給開始年齢の繰り上げや繰り下げ、障害者、長期加入者、坑内員や船員への特例、在職老齢年金、併給調整・・・等々、いろいろな仕組みが複雑に組み込まれています。
ですから老齢年金は、結果的に細分化された複雑な制度になってしまっているのだと思います。
ところで、今回は老齢年金がどのような変遷を辿ってきたかについてのみ、大筋を書いてみます。
まず、ご存じだと思いますが、老齢厚生年金は「定額部分(65歳以降は老齢基礎年金)」と「報酬比例部分(65歳以降は老齢厚生年金)」の2階建てで構成されています。
「定額部分」は在職中の報酬の額に関係なく、最低限一定額を補償する年金で、
「報酬比例部分」は在職中の生活水準を反映できるように在職中の報酬によって決められる年金です。
昭和60年の法改正の前は、
「定額部分」と「報酬比例部分」を合わせた額が、原則として、男性は60歳、女性は55歳から支給されていました。
そして、厚生年金の被保険者期間が、原則として20年以上あれば受給できました。
昭和60年の法改正後からは、
「老齢厚生年金(報酬比例部分)」と「老齢基礎年金(定額部分)」を合わせて65歳から支給されることになりました。
しかし、60歳から年金が支給されることを期待して人生設計で考えた人への支給を、突然、65歳から支給することに決まったとしたらどうなるでしょうか?
当然、生活に大きな影響が出て、不満も出ますよね。
そこで、この新制度になったとき、60歳の人が65歳になるまでの間、従来の老齢年金を従来の老齢年金と同様に、「定額部分」と「報酬比例部分」を合わせた額を支給しました。
これを「特別支給の老齢厚生年金」といいます。
平成6年の法改正後からは、
長寿社会に向けて、将来の現役世代に過重な負担が生じないよう、60歳から65歳までを賃金と年金を合わせて生活設計する世代としました。
そこで60歳から65歳までは「報酬比例部分」のみを支給することにし、
しばらくの間は、国民の生活設計の急激な変化を生じさせないよう、「定額部分」の支給開始年齢を徐々に上げていくという段階的措置をとることにしました。
したがって、60歳から65歳までの間で、「報酬比例部分」のみの支給から「報酬比例部分」と「定額部分」の両方を支給される年齢を段階的に上げていく仕組みになりました。
平成12年の法改正後では、
想定以上に少子と長寿化が進行し、また経済の低成長が長期化することもあり、
65歳前の「報酬比例部分」も廃止することとして、65歳から「老齢厚生年金」と「老齢基礎年金」のみ支給することになりました。
そして、また国民の生活設計の急激な変化を生じさせないよう、「報酬比例部分」の支給の開始年齢を段階的に上げ、最終的には廃止する措置をとっています。
現在は、平成12年の法改正の段階的措置の最終段階になっています。
具体的には、男性で昭和36年4月2日生まれ、女性で昭和41年4月2日生まれ(女性の支給年齢は5歳若いです)の人からは、老齢厚生年金は65歳からの支給になります。
これからも少子高齢化や、経済状態が改善されなければ、ますます厳しくなっていくかもしれません。
70歳からの年金支給も、あり得ないことではないと思います。
人口減少が食い止められ、経済の再生が進めばいいのですが・・・。